医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 新型コロナ感染における「マクロファージ活性化症候群」に関する総説論文発表-北大

新型コロナ感染における「マクロファージ活性化症候群」に関する総説論文発表-北大

読了時間:約 3分28秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年08月11日 PM12:15

COVID-19における高サイトカイン血症で示唆されるマクロファージの関与

北海道大学は8月7日、(SARS-CoV-2)感染患者でみられる強い炎症状態について、最新の知見をまとめた総説論文を発表した。これは、遺伝子病制御研究所の大塚亮助教、清野研一郎教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Inflammation and Regeneration誌」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

昨今、世界的に猛威を奮っているSARS-CoV-2の感染により引き起こされるCOVID-19において、一部の患者は重篤化しマクロファージ活性化症候群()に類似した高サイトカイン血症()をきたすことが報告されている。サイトカインストームは免疫系の異常活性化を本態としており、さまざまな免疫細胞が活性化されることにより、大量のサイトカインを産生・放出している状態だ。サイトカインストームはしばしば多臓器不全を引き起こし、死に至る場合がある。サイトカインストームにおける全身の炎症状態には腫瘍壊死因子(TNF)-α、I型およびⅡ型インターフェロン(IFN)、(IL)-1、、CCL2、または単球走化性タンパク質1(MCP-1)などのさまざまな炎症性サイトカイン、またはケモカインが関与しているとされている。加えて、T細胞またはマクロファージなどの免疫細胞は、これらのサイトカインを放出または受容して活性化するなどするため、サイトカインストームの病態生理を理解するために重要な細胞と考えられる。その中でも、特にマクロファージの強い活性化を起因とするMASが注目されている。

今回研究グループは、サイトカインストーム、特にマクロファージが関わるMASに着目し、COVID-19の病態との関わり及びサイトカインを標的とした治療法について最新の知見を総説論文としてまとめた。

抗サイトカイン療法で、重症患者のCOVID-19患者の予後改善が報告されている

COVID-19患者の大部分は無症状または軽度の呼吸器症状を示す経過をたどるが、約20%の患者は重度の肺機能障害に至る。なぜ一部の患者でのみ重症化するのか、そのメカニズムは詳細に明らかになっていない。

COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2は、特定のレセプターを介して肺胞上皮細胞に感染する。ウイルスの増幅によって感染細胞は傷害され細胞死に至る。このとき、死細胞から放出されるさまざまなタンパク質が肺に存在するマクロファージに取り込まれ、活性化を誘導する。活性化したマクロファージは、T細胞などの他の免疫細胞を呼び寄せるケモカインや、活性化させる炎症性サイトカインを産生し、感染局所への免疫細胞の集積と活性化を引き起こす。さらに、集積したT細胞は種々の炎症性サイトカインを放出し、これによりマクロファージが刺激されることでまた活性化が起こるというサイクルに陥る。このようにして、SARS-CoV-2感染とマクロファージ活性化を起点とした炎症反応は次第に増幅され、肺全体の急性の炎症状態に至ると考えられる。

MASは全身性の過剰な炎症状態であり、感染症、悪性腫瘍、または全身性若年性特発性関節炎などの小児リウマチ性疾患の患者において、しばしば観察される。MASにおいては、特にTNF-α、IL-6、IL-1βの関与が明らかにされており、これらのサイトカインを標的とした治療が行われている。ヒト化抗ヒトIL-6受容体モノクローナル抗体(トシリズマブ)、ヒト型リコンビナントIL-1受容体(アナキンラ)などがその代表例として挙げられるが、COVID-19においてもMASと類似して、これらのサイトカイン濃度が高値を示すことから、同様の治療法を試みたという報告が発表されている。

中国科学技術大学のXiaoling Xuらの研究グループは、トシリズマブの治療によってCOVID-19患者の炎症状態は著しく改善し、目立った有害事象もなく治療効果が得られたことを報告している。また、トシリズマブ治療を受けた21人の患者の90%にあたる19人の患者が、3週間以内での退院を実現している。さらに、中国と同様に非常に多くの感染者数を記録しているイタリアのブレシア大学のPaola Toniatiらの研究グループは、100人のCOVID-19患者に対してトシリズマブ治療を行い、70%以上の患者で症状の改善または無増悪という結果が得られていく。これらの症例から、抗IL6療法に効果が期待できることが明らかとなった。

IL-6やIL-1を標的とした治療がCOVID-19に有効である可能性

同じくイタリアのヴィータサルートサンラッファエーレ大学のGiulio Cavalliらの研究グループは、アナキンラによる抗IL-1療法を36人の患者に対して実施。さらに、アナキンラ治療群を高用量と低用量の2群に分割しており、標準治療(ハイドロキシクロロキン、ロピナビル、リトナビル)のみの患者群と比較して、特に高用量アナキンラ投与を併用した群では、3週目での生存率が有意に高いことを報告している。

以上の報告は、比較対照群のない結果ではあるものの、抗サイトカイン療法、特にIL-6やIL-1を標的とした治療がCOVID-19に有効であることを示唆する重要な知見であると考えられる。2020年7月3日現在、COVID-19に関連してトシリズマブでは約50、アナキンラでは約20の臨床試験が進行中だ。

研究グループは、「これらの例以外にも、サイトカインを標的とした治療が試みられており、今後発表される結果に注目が集まっているとともに、今後の研究が有効な治療標的発見につながることが期待される」と、述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 脊髄損傷、HGF遺伝子発現制御による神経再生の仕組みを解明-藤田医科大ほか
  • 抗がん剤耐性の大腸がんにTEAD/TNF阻害剤が有効な可能性-東京医歯大ほか
  • 養育者の食事リテラシーが低いほど、子は朝食抜きの傾向-成育医療センターほか
  • 急速進行性糸球体腎炎による透析導入率、70歳以上で上昇傾向-新潟大
  • 大腿骨頭壊死症、骨粗しょう症薬が新規治療薬になる可能性-名大