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生体内HIV-1感染細胞のリアルな特徴をマルチオミクス解析で解明-東大医科研ほか

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2020年07月16日 PM12:30

感染者体内に潜むごく少量のHIV+ T細胞のみを単離、解析するのは困難

東京大学医科学研究所は7月15日、小動物モデルである「」を用いたヒト免疫不全ウイルス1型()感染動物モデルを作り、このモデル動物から取得された検体のマルチオミクス解析によって、生体内におけるHIV-1感染細胞の特徴を多角的かつ網羅的に描き出したと発表した。この研究は、同研究所附属感染症国際研究センターシステムウイルス学分野の佐藤佳准教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Reports」(オンライン版)に掲載されている。


画像はリリースより

後天性免疫不全症候群()は、HIV-1の感染を原因とする疾患。抗レトロウイルス薬多剤併用療法の発展により、エイズの治療は可能となったが、それを根治する療法は未だ確立していない。その原因として、薬剤投与でも取り除くことができない、長期間生存する潜伏感染細胞が生体内に存在する可能性が考えられている。しかし、すべてのHIV-1感染細胞が潜伏感染化するわけではないため、生体内におけるウイルス感染細胞を特徴づける因子についての幅広い理解が必要となっている。

HIV-1は、人間の免疫の指令塔の役割を果たすリンパ球のCD4 T細胞を主たる感染標的とする。しかし、HIV-1感染者の体内でウイルスに感染しているCD4 T細胞はごく一部。エイズの根治を目指すにあたり、生体内におけるウイルス感染細胞の性状を理解することは重要だが、HIV-1感染細胞に特異的なマーカー分子が未同定であるため、HIV-1感染者から、ウイルス感染細胞のみを特異的に単離して解析することはきわめて困難だ。

「ヒト化マウス」×「」で多角的に解析、真の特徴を解明

この問題点に対して、研究グループは、CD4 T細胞を含むヒトの免疫システムを再構築した「ヒト化マウス」という小動物モデルを用い、また、HIV-1のゲノムにgreen fluorescent protein(GFP、緑色の蛍光を発するタンパク質)の遺伝子を組み込んだレポーターウイルス「HIV1-GFP」を用いることで、生体内におけるHIV-1感染細胞を捕捉できる感染実験モデルを確立した。このモデル系から得られた検体と、セルソーターという技術を活用することにより、生体内におけるHIV-1感染細胞を、GFPを指標として、高純度に分離することが可能となった。

今回の研究では、近年発展したさまざまな解析手法を駆使して、生体内におけるHIV-1感染細胞の性状の多角的な解析を実施。まず、極少量の検体における、標的DNAの絶対量を測る技術droplet digital PCR(ddPCR)法による解析によって、GFPが陰性のCD4 T細胞、すなわち、ウイルス非産生細胞においても、ウイルス由来のDNAが存在することが確認された。これは、ヒトのゲノムに組み込まれたウイルスDNAは保持しているが、ウイルスを産生しない細胞、すなわち、潜伏感染細胞になりうる細胞が、ヒト化マウスモデルを用いた再構築実験においても再現されたことを示唆している。

次に、ligation mediated PCR(LM-PCR)法による解析により、ウイルス感染細胞において、HIV-1のDNAが、転写が活発なヒトゲノムの領域に多く挿入されていることが示された。これは、ウイルスのヒトゲノム内の組み込み部位によって、感染細胞のウイルス産生能力が規定される可能性を示唆している。

また、digital RNA-sequencing法による解析の結果、ウイルス産生細胞において、ウイルス由来のmRNAは、全遺伝子の中でも5番目に高い発現量であることが示された。発現量はGAPDHなどのハウスキーピング遺伝子と同等か、それ以上の発現レベルであり、きわめて多量なウイルス由来のmRNAが転写されていることが明らかとなった。

そして、1細胞レベルの解析の結果、生体内におけるHIV-1産生細胞が不均質な細胞の集団であること、そして特に、CXCL13を高発現する細胞亜集団と、インターフェロン誘導遺伝子が低発現である細胞亜集団でHIV-1が高発現していることが示された。この結果は、これらの細胞集団が、生体内におけるウイルスの感染拡大に寄与している可能性を示唆している。

エイズ根治法の手がかり探索に重要な成果

以上のように、本研究では、ヒト化マウスモデルを用いたHIV-1感染細胞のマルチオミクス解析によって、既存の手法では解析がきわめて困難な、生体内における「真の」HIV-1感染細胞の特徴を多角的に描き出すことに成功した。また、マルチオミクス解析は、きわめて汎用的であり、さまざまなシーケンスデータに適用可能であることから、あらゆるウイルス研究への応用が可能だ。

研究グループは今回の成果について、「エイズ根治に向けて必須であるHIV-1感染細胞の特徴の理解を深め、ウイルスと宿主の新たな関係性の一端を明らかにしたもの」であるとし、「ウイルスと宿主の相互作用のさらなる解明や、エイズの制圧法の開発に向けた基礎学術基盤の形成に直結する研究と言える」と、述べている。

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