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ノロウイルスが2通りの構造をもち、感染前に変化して細胞に感染することを発見-生理研

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2020年07月06日 AM11:00

培養できる細胞が限定され、構造学的な知見が少ない「ノロウイルス感染症」

生理学研究所は7月3日、ノロウイルスが2通りの構造をもち、その構造を切り替えることによって細胞に感染できるようになることを発見したと発表した。この研究は、同研究所の村田和義准教授、ソン・チホン特任助教と、北里大学の片山和彦教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS Pathogens」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

ノロウイルスは世界中で流行しているウイルス性急性胃腸炎の主要な原因ウイルスで、現在でも発展途上国を中心に、毎年約20万人がノロウイルス感染で命を落としている。日本国内においても、学校、飲食店、病院、養護ならびに介護施設などで度々集団感染を引き起こし、大きな社会問題となっている。しかし、ノロウイルスを培養できる細胞は非常に限られており、ウイルスそのものに関する構造学的な知見も少ないため、未だノロウイルス感染症への効率的な治療法はなく、ワクチンも存在しない。

非感染型のBタイプから、感染型のAタイプに構造変化して小腸の細胞に感染

このような状況の中、ノロウイルス感染の仕組み解明や、治療薬・ワクチン開発のためには、ウイルス粒子の構造情報がとても重要であることから、研究グループは低温電子顕微鏡を用いて、ノロウイルス粒子の構造解析を行った。

その結果、マウスのノロウイルスにおいて、同一種で異なる2つの粒子構造が存在することを発見。そして、この2つの構造は、溶液のpHとカルシウムなどの金属イオンの濃度を変えることによって切り替わることを見出した。マウスノロウイルスは、酸性条件下で金属イオンを加えるとAタイプを示し、アルカリ性条件にして薬剤で金属イオンを取り除くとBタイプになった。またこれらの構造の変化は、外側の殻を構成するタンパク質でできた突起が回転して縮み、突起の上部で隣と結合するとAタイプに、逆方向に回転して伸び突起の下部で隣と結合するとBタイプになることもわかったという。

次に、ノロウイルスがなぜこのような2つの構造を持っているのかについて検証を行った。それぞれの構造タイプにしたノロウイルスを細胞に感染させたところ、Bタイプは、Aタイプに比べて4時間程度遅れて増殖することがわかった。また、別の実験からBタイプはAタイプに比べて細胞の表面に吸着しにくいこともわかった。さらに、これら2つの構造はヒトのノロウイルス(GII.3株)の擬似粒子(ウイルス様中空粒子)においても確認することができた。これらの結果から、ノロウイルスはBタイプでは細胞に感染せず、Aタイプに変化してから感染すると考えられた。つまり、ノロウイルスは感染型(Aタイプ)と非感染型(Bタイプ)の2つの構造を切り替えていると考えられる。

今回の研究により、ノロウイルスは感染型(Aタイプ)と非感染型(Bタイプ)の2つの構造を持ち、BタイプからAタイプに構造を変化させて標的である小腸の細胞に感染することが示唆された。なぜノロウイルスが2つの構造を必要とするのかについてはまだ明らかになっていないが、一つは、動物が持つ免疫システムを回避するためと考えられるという。

ノロウイルス感染症の治療薬やワクチン開発への貢献に期待

ヒトを含む動物は、ウイルスに感染しないようにするための独自の免疫システムを持っている。これは「ウイルスの構造を認識し、これに対する抗体を分泌しウイルスを封じ込める」というもの。ノロウイルスは動物の口から侵入し、消化されずに胃を通り越して、小腸の細胞に感染する。そこで、通常はBタイプの構造でこの免疫システムを欺いて目的の小腸の細胞に近づき、最後にAタイプに変身して感染するのではないかと考えられる。

今回の研究成果により、マウスのノロウイルスの構造変化と感染のメカニズムの一端が明らかにされた。ヒトのノロウイルスでは、2つの構造を同じ株(GII.3株)の中で初めて確認することができたが、まだどのように2つの構造が切り替わるかはわかっていない。しかし、ヒトのノロウイルスでも同様のメカニズムが用いられていると想像される。

研究グループは、「今後さらに研究を進めることで、ヒトのノロウイルスについてもその構造変化と感染メカニズムが明らかになり、治療薬やワクチンの開発へとつなげて行けると期待される」と、述べている。

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