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種々の精神疾患関連遺伝子AUTS2が、シナプス形成や恒常性維持に関与と判明-NCNP

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2020年06月29日 PM12:15

なぜAUTS2遺伝子の異常で自閉症などが発症するのか?

)は6月26日、自閉症や統合失調症、薬物依存など、さまざまな精神疾患に関わるAUTS2遺伝子が中枢神経のシナプス形成やその恒常性維持に関わることを明らかにしたと発表した。この研究は、NCNP神経研究所病態生化学研究部の堀啓室長および星野幹雄部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「iScience」に掲載されている。


画像はリリースより

AUTS2遺伝子(Autism Susceptibility Candidate2)は、2002年に自閉症と関係のある遺伝子として初めて報告され、その後、統合失調症や知的障害、(注意欠如・多動症)、薬物依存、てんかんなど、さまざま精神発達障害に広く関わることが示唆されてきた。この遺伝子から生み出されるAUTS2タンパク質は、神経細胞の核や細胞質に存在しているが、長い間その働きについてはほとんどわかっておらず、この遺伝子の異常がどのように精神疾患を引き起こすのかは明らかにされていなかった。

研究グループは2014年に、細胞質に存在するAUTS2が、細胞の形態や動きを制御する細胞骨格系タンパク質に働きかけることで、胎児期から乳児期の正常な脳内で起こる神経細胞の移動や神経突起の伸展などを調節することを明らかにした。また、他の研究グループからは、核に存在するAUTS2が、さまざまな遺伝子の転写調節因子としても働くことが報告されてきた。一方で、AUTS2は出生後や成熟した成人の脳においても存在している。また、AUTS2は大脳の前頭野や海馬といった、脳の中でも特に高いレベルでの精神機能(記憶、学習、意思決定やコミュニケーションなど)に関わる脳部位に強く発現している。しかし、生後の脳発達や成熟した脳においてAUTS2がどのような働きをしているのか、また、なぜAUTS2遺伝子に異常があると自閉症などの精神疾患を発症するのかは不明のままだった。

Auts2ノックアウトで神経系ネットワークの興奮性/抑制性バランスが破綻

今回、研究グループは、マウス遺伝学を用いた実験によって、神経系ネットワークの基本単位である「」に着目し、この遺伝子の異常によって引き起こされる精神疾患の病理に迫った。

神経細胞同士をつなぐ「シナプス」は、乳児期から思春期にかけて活発に作られ、脳神経系ネットワークを形成していく。成人の脳でも記憶や学習、あるいはストレスといった身体内外からの刺激に応答してその数は増減するが、正常な脳ではある一定数に保たれるように調節されている。中枢神経系のシナプスは大まかに、「興奮性シナプス」と「抑制性シナプス」に分けられる。身体内外からの刺激や情報を受け取って活性化した(興奮した)神経細胞は、その情報を「興奮性シナプス」を介して次の神経細胞へと伝える。一方で、「抑制性シナプス」は、情報を伝え終えた神経細胞の活動を低く抑えたり、あるいは情報が間違った神経ネットワーク内に入り込まないようブロックしたりするような役目を担っている。これら2種類のシナプスの数は厳密にコントロールされており(シナプス恒常性)、神経系ネットワークの興奮性/抑制性のバランスを保つことで、正常な精神活動が営まれる。逆に、このシナプス恒常性に変調をきたすと、さまざまな精神疾患が引き起こされる。

今回の研究では、Auts2遺伝子を破壊したマウス(ノックアウトマウス)において、大脳前頭野や海馬などの脳領域において新規に作られる興奮性シナプスの数が増大し、逆に不要な興奮性シナプスを刈り込む機能が低下していることを発見。一方で、抑制性シナプスに対してはこのような障害は起こらず、Auts2遺伝子に異常を持つマウスの脳では、シナプス全体における興奮性シナプスの割合が増加し、神経系ネットワークの興奮性/抑制性バランスが破綻していることが示唆された。

Auts2ノックアウトマウスは自閉症や知的障害などによく似た症状

電気生理学的な実験手法を用いてさらに詳しく調べると、Auts2ノックアウトマウスの脳内では、予想通り神経細胞が過剰に興奮している様子が観察された。つまり、AUTS2は新規の興奮性シナプス形成を抑制し、逆に刈込みを促進することで、神経系ネットワークの興奮性/抑制性バランスを調節する働きをすることがわかった。さらにAuts2ノックアウトマウスは、仲間のマウスとうまくコミュニケーションが取れない、あるいは物覚えが悪いなど、自閉症や知的障害などによく似た症状を示すことが判明。実際に、自閉症の症例ではシナプスの数が増える傾向にあることが知られている。これらのことから、AUTS2が興奮性シナプスの数をコントロールし神経ネットワークの興奮性/抑制性バランスを調節することによって、脳神経系の正常な機能に関わっていることが示された。

今回の研究から、AUTS2遺伝子の異常がシナプス恒常性の破綻を引き起こし、さまざまな精神疾患を惹起する基盤となっていることが示唆された。これまで自閉症や統合失調症などの精神疾患は、臨床症状が異なることから、それぞれ異なる種類の障害によって引き起こされると考えられてきた。しかし、AUTS2遺伝子の変異によって惹起されるシナプスの異常という病理が、さまざまな精神疾患の発症に広く共有されている可能性がある。研究グループは、「今回作製したAuts2ノックアウトマウスで見られる神経ネットワークの障害が、精神疾患患者でも同じように起こっていると考えられることから、このモデル動物をさらに詳しく調べていくことで、有効な治療法の開発につなげることができると大いに期待される」と、述べている。(QLifePro編集部)

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