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白血病治療薬atRA、巣状分節性糸球体硬化症の進展を抑止-筑波大ほか

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2020年05月25日 PM12:15

指定難病のFSGS、患者の約4割が発症後15年程度で末期腎不全に

筑波大学は5月22日、尿中に大量のタンパク質が漏れるネフローゼ症候群をきたす代表的な疾患である巣状分節性糸球体硬化症(Focal Segmental Glomerulosclerosis:FSGS)の発症メカニズムにおいて、糸球体上皮細胞内で転写因子MafBが、尿タンパク漏出を防ぐ濾過障壁(スリット膜)を構成するタンパク質の遺伝子を含む、複数の遺伝子発現を制御していることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学医療系の高橋智教授、山縣邦弘教授、臼井俊明講師、森戸直記講師、昭和大学医学部内科学講座・腎臓内科学部門の佐藤芳憲講師(藤が丘病院腎臓内科)、学校法人関西医科大学内科学第ニ講座の塚口裕康講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Kidney International」に掲載されている。

FSGSは、ネフローゼ症候群の原因疾患の一つで、日本では指定難病に認定されている。ネフローゼ症候群の初期治療では、一般にステロイド治療が行われるが、その効果は限定的で患者の約4割が発症後15年程度で末期腎不全に至る。FSGSは、主として腎糸球体上皮細胞が傷害されることが原因と考えられているが、その詳細な発症メカニズムには不明な部分が多い。

腎糸球体上皮細胞で転写因子MafBが発現していることは知られており、これまでに、研究グループを含め複数の研究グループから、胎児期における腎糸球体上皮細胞の正常発生にMafBが必須であることが報告されている。MafBの発現は、発生段階のみならず、成体でも腎糸球体上皮細胞で持続しているが、全身でMafBを欠損させたマウスは、生後すぐに死亡してしまうため、成体でのMafBの働きはわかってなかった。

FSGSでは、25歳以下の若年発症者の約3割に遺伝素因があり、腎糸球体上皮細胞の単一遺伝子の異常が発病の原因となることが知られている。近年、研究グループは、ヒトMAFBの突然変異がFSGSの原因となることを報告した。そこで今回は、FSGSの発症におけるMafBの働きに注目して、腎糸球体上皮細胞の維持におけるMafBの機能解明を試みた。


画像はリリースより

糸球体上皮細胞内で転写因子「MafB」が複数の遺伝子発現を制御

今回の研究では、ヒトの代表的な糸球体疾患である微小変化型ネフローゼ症候群、IgA腎症、FSGS、糖尿病性腎症の腎生検サンプルを用いて、MAFBの免疫染色を実施。その結果、腎糸球体上皮細胞障害をきたすFSGSの患者サンプルにおいて、他疾患よりMAFB発現量が低下していることが判明した。

続いて、成熟腎糸球体上皮細胞におけるMafBの機能を調べるために、ホルモン剤タモキシフェンを投与すると腎糸球体上皮細胞でのみMafBを欠損させることができる特殊なマウス(コンディショナルノックアウトマウス)を作製。成体のコンディショナルノックアウトマウスにタモキシフェンを投与したところ、約3か月で大量のタンパク尿が出現した。4か月後には、腎機能障害が出現し、FSGSを生じた。

糸球体硬化が起こる分子メカニズムを調べるため、上記のマウスの腎糸球体を単離して遺伝子解析したところ、Mafbだけでなく、尿タンパク漏出を防ぐスリット膜を構成する複数の遺伝子発現(Nphs1、Magi2)、および、腎糸球体上皮細胞特異的転写因子の遺伝子発現(Tcf21)が低下していた。これらの3つの遺伝子は、ネフローゼ症候群の原因遺伝子であり、腎糸球体上皮細胞の機能維持に必須と考えられる。マウス腎組織の生化学的解析では、タンパク質レベルでもこれらの遺伝子発現が低下していた。これらの所見から、MAFBは腎糸球体上皮細胞の胎児期発達のみならず、成熟段階の機能維持にも必須であることが明らかになった。

腎糸球体上皮細胞でMafBを発現上昇させることでFSGSが軽減

研究グループはこれまでに、MafBを腎糸球体上皮細胞に過剰発現したマウスでは糖尿病性腎症が軽減することを報告しており、FSGSでも同様のMafBによる腎保護作用が認められるかを調べた。FSGSを発症させたモデルマウスの解析の結果、MafBが腎糸球体上皮細胞に過剰発現したマウスでは、尿タンパクが減少して腎障害も軽減されたという。

近年、研究グループは、白血病治療薬でビタミンA誘導体の一種であるオールトランスレチノイン酸(atRA)が、白血球の一種であるマクロファージの細胞内にMafBを誘導することを報告している。そこで、マウスの腎糸球体上皮細胞株にatRAを投与したところ、MafB発現量の上昇が見られた。同じく、マウスの実験においても、atRAを投与したマウスでは、腎臓の単離糸球体でMafB発現量が上昇していた。これらのマウスでは、尿タンパクが減少し腎障害も軽減していたという。一方、前述の腎糸球体上皮細胞でのみMafBを欠損させたコンディショナルノックアウトマウスでは、atRAを投与してもタンパク尿減少効果や腎障害改善効果がほとんど認められず、atRAのタンパク尿減少効果や腎保護効果は、MafBを介する作用であると考えられた。

以上の結果より、MafBは腎糸球体上皮細胞において、スリット膜などの遺伝子発現を調整しており、この機能維持に必須であること、腎糸球体上皮細胞でMafBを発現上昇させることでFSGSが軽減することが明らかになった。

atRA、ヒトの一部の腎炎でのタンパク尿減少効果報告も。FSGS治療薬としての再開発に期待

今回の研究では、MafBの腎糸球体上皮細胞機能維持における役割が解明され、特に既存の白血病治療薬atRAの投与が、腎糸球体上皮細胞にMafB発現を誘導し、FSGSの進展を抑止する治療効果が示された。atRAは、ヒトの一部の腎炎でのタンパク尿減少効果も症例報告されており、将来的にFSGSの治療薬としての再開発が進むと考えられ、今後、MafBを分子ターゲットにした慢性腎臓病への個別化治療法の開発が期待される、と研究グループは述べている。

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