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新型コロナ拠点372医療機関の浸水想定を調査、最大規模の洪水で約3分の1が浸水-京大

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2020年05月07日 PM01:00

感染症と大規模水害という「複合災害」への備えが必要

京都大学は5月1日、全国の感染症病床を有し、新型コロナウイルス感染症対応の拠点となる372の感染症指定医療機関の浸水想定の状況を調査した結果、河川計画の基準となる規模の洪水では全体の約4分の1、想定される最大規模の洪水では約3分の1の医療機関で浸水が想定されていることを明らかにしたと発表した。これは、同大防災研究所野原⼤督助教、角哲也教授らの研究グループによるもの。研究成果は、同大防災研究所⽔資源環境研究センター 社会・⽣態環境研究領域のWebサイトに掲載されている。


画像はリリースより

新型コロナウイルス感染症()の感染拡⼤に伴い、各地の医療現場では医療スタッフらによる懸命な対応が続いている。日本国内でこうした感染症に対する医療の拠点となるのが、感染症指定医療機関だ。近年、日本では⼤規模な⽔害が相次いで発⽣しており、⽔害避難の重要性が盛んに議論されているが、特殊な感染症患者の医療を担当する感染症指定医療機関などでは、感染症対策の都合、患者の状況、必要となる設備の特殊性などから、避難に通常より⻑い時間を要したり、避難そのものが困難となったりする可能性が懸念される。また、浸⽔に伴う感染症指定医療機関の機能停⽌は、地域の感染症医療体制の弱体化を招き、特に昨今のように特殊な感染症が流⾏している最中においては、公衆衛⽣の危機に繋がりかねないと考えられる。

今回研究グループは、このような課題認識のもと、洪⽔時における感染症指定医療機関の浸⽔の危険性を把握し、より感染症指定医療機関を含めた地域の⽔害対応計画の向上に資することを⽬的として、⼤規模な洪⽔の発⽣時における感染症指定医療機関の浸⽔想定状況を調査。その結果を踏まえ、強調したいことを以下のようにまとめた。

(1)訴えたいこと
1. 新型コロナウイルスによる「」と「⼤規模⽔害」の「複合災害」を意識する必要がある
2. ⽔害時に⽔平避難が困難な状況が考えられ、特段の⽔害対応が必要
3. 医療機関、医療・保健部局は感染症対策で⼿⼀杯なので、防災・治⽔対応部局が、梅⾬期・台⾵期に備えて特段の側⾯⽀援を今から⾏う必要がある

(2)早急に⾏うべきこと
1. ⽔害リスクの発⽣要因の再確認:河川の外⽔氾濫、⼩河川の内⽔氾濫、河川の合流部・狭窄部直上流など。これらの要因は、⻄⽇本豪⾬における⼩⽥川(岡⼭県倉敷市真備町)、台⾵19号の阿武隈川(宮城県伊具郡丸森町)・越辺川(埼⽟県)、千曲川破堤などに関連
2. 直接的な浸⽔対策:病院の防⽔機能強化として、⾬⽔侵⼊ルートの確認と防⽔板の設置、⾃家発電施設の耐⽔化(2重化)など
3. 間接的な浸⽔対策:近接堤防の⽔防対応強化(⼟嚢確保)、ポンプ⾞の重点⼿配、上流ダムの治⽔機能強化など

(3)中⻑期的に⾏うべきこと
1. 感染症指定医療機関の⽴地条件の適正化(⽔害リスクも⼗分に考慮する)
2. バックアップ体制(指定医療機関の2重化)の構築

このうち、(2)の3に記載の上流ダムの治⽔機能強化については、京都⼤学は、⽔資源機構・⽇本気象協会と共同で、SIP(内閣府・戦略的イノベーション創造プログラム)による「アンサンブル事前放流」技術を開発中。同技術開発の枠組みを活⽤して、以下のようなことに取り組む予定。
1)15⽇前からの⻑時間アンサンブル降⾬予測と流出予測の⾼精度化により、ダムの治⽔機能を⾼める事前放流を確実に実施する
2)SIP技術も活⽤し、感染症指定医療機関を下流に抱える上流ダムがあれば、その治⽔機能を⼀段と⾼めるべく関係者で連携協議

感染症指定医療機関の情報は、厚⽣労働省のwebサイトに掲載されている特定感染症指定医療機関(4医療機関)、第⼀種感染症指定医療機関(ただし特定感染症指定医療機関に指定されている機関を除く53医療機関)、および感染症病床を有する第⼆種感染症指定医療機関(特定、第⼀種感染症指定医療機関と重複する機関を除く315医療機関)の計372医療機関を対象とした。

各指定医療機関の浸⽔想定状況の調査には、主として国⼟地理院の「ハザードマップポータルサイト」に掲載されている「重ねるハザードマップ」を利⽤した。「重ねるハザードマップ」で公開されているマップのうち、河川計画の基準となる規模の洪⽔発⽣時における浸⽔想定状況の判別には「洪⽔浸⽔想定区域(計画規模)」を、想定される最⼤規模の洪⽔発⽣時における浸⽔想定状況の判別には「洪⽔浸⽔想定区域(想定最⼤規模)」を⽤いた。また、特に重要と考えられる特定感染症指定医療機関と第⼀種感染症医療機関については、⽴地する地域の河川管理者(国、都道府県)や⾃治体によって公開されている情報を可能な限り参照し、浸⽔想定の情報が得られた場合にはそちらを採⽤した。

最⼤で10mを超える浸⽔が想定されている医療機関も

調査対象とした全感染症指定医療機関(372医療機関)の浸⽔想定の状況については、想定浸⽔の程度を危険度に応じて4階級に区分。計画規模の洪⽔で浸⽔が想定されているのは95医療機関(全体の25.5%)だった。このうち、50医療機関(13.4%)では最⼤想定浸⽔深が2〜3m以上(浸⽔ランク2以上)、うち11医療機関(8.0%)では、最⼤想定浸⽔深が5mまたはそれ以上(浸⽔ランク3)だった。⼀⽅、想定最⼤規模の洪⽔で浸⽔が想定されるのは125医療機関(全体の33.6%)だった。そのうち、99医療機関(26.6%)では最⼤想定浸⽔深が2〜3m以上(浸⽔ランク2)、さらに、うち36医療機関(9.7%)では最⼤想定浸⽔深が5mまたはそれ以上(浸⽔ランク3)となっていた。

特に⼀類感染症の患者等の⼊院を担うなど、特殊な感染症対策の拠点となる特定感染症指定医療機関と第⼀種感染症指定医療機関(計57医療機関)の浸⽔想定の状況については、計画規模の洪⽔で浸⽔が想定されているのは17医療機関(対象医療機関の29.8%)だった。このうち、10医療機関(17.5%)では最⼤想定浸⽔深が2〜3mまたはそれ以上(浸⽔ランク2以上)、うち1医療機関(1.8%)では、最⼤想定浸⽔深が5mまたはそれ以上(浸⽔ランク3)となっていた。⼀⽅、想定最⼤規模の洪⽔で浸⽔が想定されるのは26医療機関で、対象医療機関の45.6%にのぼった。このうち、想定浸⽔深が1m以下だったのは2医療機関(対象医療機関の3.5%)のみであり、残る24医療機関(42.1%)は最⼤想定浸⽔深が2〜3mまたはそれ以上だった。また、8医療機関(14.0%)では、最⼤想定浸⽔深が5mまたはそれ以上(本調査対象で最も危険なレベル)であり、中には最⼤で10mを超える浸⽔が想定されている医療機関もあった。

全国の感染症指定医療機関のうち、感染症病床を有する372医療機関の浸⽔想定の状況を調査した結果、計画規模の洪⽔でおよそ4分の1の医療機関で、想定される最⼤規模の洪⽔でおよそ3分の1の医療機関で浸⽔が想定されていた。この割合は、特定感染症指定医療機関と第⼀種感染症指定医療機関に限った場合、いずれの規模の洪⽔でも増加し、想定最⼤規模では半数近くの医療機関で浸⽔することが想定されていた。これは、⼤規模な⽔害が全国のどこかで⽣じた場合に、その地域の感染症指定医療機関が浸⽔するような事態が発⽣する可能性が⼩さくないことを⽰しているという。

医療機関の浸⽔リスクを認知し関係者間で共有するだけでも、洪⽔時の初動対応を改善

最⼤想定浸⽔深が2〜3mまたはそれ以上となる医療機関も、計画規模で約14%、想定最⼤規模で約27%と3割弱にのぼった。特に、特定感染症指定医療機関と第⼀種感染症指定医療機関では、およそ4割の医療機関が該当し、特に⼀類感染症に対する医療体制の維持に対する深刻なリスクが潜む状況がうかがえた。この場合、⼟のうや⽌⽔板の設置などの浸⽔防⽌対策によって浸⽔を防ぐことは困難であるため、建物内の浸⽔を前提に対策を考える必要がある。特に⼊院患者や医療機能の⽔平避難が困難である場合には、感染症対策の⾯では感染症病床の上層階への設置、電気回路の防⽔化や⾮常⽤電源や⾃家発電設備の上層階への設置などを検討する必要があると考えられる。

また、中には最⼤想定浸⽔深が10m以上となる医療機関も⾒られた。こうした医療機関では、設備配置の⼯夫や垂直避難などの⾃衛的な対策のみでは浸⽔リスクに対応しきれない可能性がある。そのため、これをサポートする地域の⽔防活動の強化や上流ダムの事前放流など浸⽔深を抑えるような治⽔施設の⾼度な運⽤、医療機関全体の避難の受け⼊れ先の確保など、医療機関と⾏政の治⽔・防災部局、厚⽣・保健部局の連携が重要になると考えられるという。

研究グループは、「直ちに計画を改善できなくても、医療機関の浸⽔リスクを認知し関係者間で共有しておくだけでも、洪⽔時の初動対応を⼤いに改善できるものと考えられる。このとき、洪⽔発⽣の危険性をいち早く察知し、その時の患者の受け⼊れ状況などをふまえた⽔害対応計画の具体化など、対応のための時間をできる限り⻑く確保するためにも、数⽇〜1週間程度の⻑いリードタイムを持つ降⾬予測情報などを活⽤していくことも有⽤であると考える」と、述べている。(QLifePro編集部)

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