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「フレイル」と相関する血中バイオマーカーの同定に成功-OISTと京大

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2020年04月09日 AM11:30

高齢者のフレイルは全世界的な問題、未だ治療法は確立されていない

(OIST)は4月7日、「フレイル()」と相関する15個のメタボライトを発見したと発表した。これは、同大G0細胞ユニットの柳田充弘教授と照屋貴之博士、京都大学大学院医学研究科高齢者医療ユニットの亀田雅博医師、近藤祥司准教授との共同研究によるもの。研究成果は、「」(米国科学アカデミー紀要)に掲載されている。


画像はリリースより

社会の高齢化が世界規模で進展することに伴い、フレイルなどの加齢性疾患も増加しており、全世界では1億2,000万人の65歳以上の高齢者がフレイルであると推定されている。フレイルは、身体機能だけでなく認知機能の低下も含んでおり、さまざまな社会問題を引き起こす原因ともなっている。フレイルの人々は活動範囲が狭いため、世間の目が届かないことが多い。フレイル状態になると歩行困難や記憶力の低下に苦しみ、ゴミ出しや掃除などの生活に必要な作業が難しくなる。そのため、健康な人よりも多くのサポートが必要になる。フレイルは、治療により健康な状態に戻る可能性があるといわれているが、その治療法はまだ確立されていない。研究グループは、フレイル治療に必要なことは、効率的なフレイルの診断方法を開発することと考え、75歳以上の高齢患者19人を対象に研究を行った。

フレイル//可動性低下に関連する22個のメタボライトを同定

はじめに、対象患者について、認知機能を測定する「Edmonton frail scale (EFS)」、「Montreal cognition assessment (MoCA-J)」、運動能力を測定する「Timed Up and Go Test (TUG)」という3つの臨床検査を実施。その結果、19人中9人がフレイルに該当することがわかった。健康状態や気分、短期記憶、その他の兆候も示されたことで、誰がフレイルの状態にあるのかがはっきりとわかったという。また、フレイルに該当しなかった残りの10人についても、一部の人には認知機能の低下や、運動機能の低下が起こっていることが確認された。

次に、同じ19人の患者から血液を採取し、(血液を構成するアミノ酸、糖、ヌクレオチドなどの小分子)を詳しく調べた。131個のメタボライトを分析し、そのうち22個がフレイル、認知機能低下および可動性の低下に関連していることを突き止めた。これらの病態を持つ患者は、22個のメタボライトのほとんどの数値が低い傾向であった。

同定された22個のメタボライトは、抗酸化やアミノ酸、筋肉、窒素代謝などに関連。そのうち15個はフレイルと相関し、6個は認知機能の低下を、12個は運動機能の低下を示した。フレイルと相関するメタボライトで、認知機能マーカーと重複したのは5個、運動機能マーカーと重複したのは6個であった。特に、フレイルの患者では、抗酸化成分であるエルゴチオネインの値が低下していることがわかった。また、この22個のメタボライトには、同研究グループが2016年に報告した健康な人の老化マーカーの一部が含まれていた。このことは、血液バイオマーカーを測定することにより、個人の間で異なる生物学的な老化強度を老齢初期よりモニターできることを示唆している。

本研究から、他の加齢性疾患と比較しても、フレイルは特異的な代謝物プロファイルを持っていることが明らかになった。これらのメタボライトとフレイルの症状との関連性を示した今回の発見は、フレイルの診断および治療の新たなアプローチにつながる可能性がある。「血液検査という簡単な方法で、軽度な段階から診断を開始することができ、早期介入によって健康寿命を延ばすことが可能になるかもしれない」と、照屋博士は述べている。

なお、OISTと京都大学はこの研究による発見に関して、共同で特許を出願している。

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