医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > オメガ水酸化脂質がドライアイを防止、涙液の「油」を標的とした新規治療に期待-北大

オメガ水酸化脂質がドライアイを防止、涙液の「油」を標的とした新規治療に期待-北大

読了時間:約 3分19秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年04月08日 PM12:15

涙に含まれる「」という脂質に着目

北海道大学は4月8日、涙液中に存在するオメガ水酸化脂質がドライアイを防止していることを明らかにしたと発表した。これは、同大大学院薬学研究院の木原章雄教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「eLife」に掲載されている。


画像はリリースより

生体にはさまざまな役割を持つ多様な脂質が存在し、多くはヒトが健康に生きていく上で欠かせない物質だ。例えば、脂質の重要な役割の1つに物質の透過を防ぐ「バリア」としての役割が挙げられる。涙液は涙腺から分泌される水溶液だけと思われがちだが、実は外側部分に油層(脂質層)が存在し、水の蒸発を防ぐバリアとして機能する。これらの油層の脂質は、まぶたの裏側にある皮脂腺の1種()から分泌され、総称してマイバム脂質と呼ばれる。

近年、パソコンやスマートフォンの普及、エアコンの使用などの生活環境の変化に伴い、ドライアイ患者が増加している。ドライアイの約8割はマイボーム腺の機能異常、すなわち油層の異常であることが知られているが、現在のドライアイの治療薬には液層(水層とその下にあるムチン層)をターゲットにしたものしかない。油と水は性質上馴染むことができないにもかかわらず、涙液では水層上に油層が安定的に維持されている。これまで、この謎の解明が涙液の研究における重要な課題の1つだった。

涙液の油層(マイバム脂質)では極性が低い(水に溶けない性質が強い)脂質が大部分を占める。一方、涙液の油層には量は少ないものの、極性の高い部分と低い部分の両方を持ち合わせた(両親媒性)、油と水の両方と相互作用が可能と予測される「OAHFA」という脂質が存在する。OAHFAは、オメガ末端が水酸化された脂肪酸を構造中に含むオメガ水酸化脂質の1つ。これまで、OAHFAの生合成に関わる酵素やドライアイの防止における役割は不明だった。

Tg-Cyp4f39 KOマウスのドライアイは、マイボーム腺の機能異常を伴う水分蒸散亢進型

研究グループはOAHFAが油層と液層をつなぎとめ、涙液を安定させる役割を持つと仮定。この仮説を検証するために、OAHFAの生合成に関わる酵素(Cyp4f39)を同定し、その遺伝子(Cyp4f39)を欠くマウス(遺伝子欠損マウス)を作製・解析した。同研究グループは以前、Cyp4f39が皮膚においてバリアに重要なオメガ水酸化脂質アシルセラミドの産生に関わっており、Cyp4f39を全身で欠いたマウスが出生後すぐに死亡することを明らかにしている。この新生マウスの致死性を回避するため、皮膚以外の組織でCyp4f39をノックアウトさせたマウス(Tg-Cyp4f39 KOマウス)を作製した。ドライアイの評価は、眼への蛍光色素の点眼後、細隙灯顕微鏡による涙液安定性試験および眼球表面の障害度のスコア化によって行った。さらに、マイボーム腺の開口部の観察と涙液量の測定。マイバム脂質の分析・定量は、質量分析(液体クロマトグラフィー連結型タンデム質量分析)を用いた。

その結果、Tg-Cyp4f39 KOマウスは、まぶたが閉じ気味であるとともに、涙液が下まぶたに溜まっている様子が観察された。また、同マウスでは涙液層破壊時間の延長(=涙液の不安定化)と眼球表面に傷が見られ、このマウスがドライアイを示していることが明らかになった。ドライアイは、涙液中の水分が減少するタイプ(涙液減少型)と、脂質の減少によって涙液が蒸発するタイプ(水分蒸散亢進型)の2つのタイプに分けられる。Tg-Cyp4f39 KOマウスでは、涙液量は減少していない一方で、マイボーム腺の開口部で塞栓が観察された。これらのことから、Tg-Cyp4f39 KOマウスに見られるドライアイは、マイボーム腺の機能異常を伴う水分蒸散亢進型であることが明らかになった。

ドライアイ防止における正常な油層の形成の重要性が明らかに

また、Tg-Cyp4f39 KOマウスのドライアイがOAHFAの減少に起因することを明らかにするために、質量分析でOAHFAの測定を行った。その結果、Tg-Cyp4f39 KOマウスのOAHFA量は、正常なマウスの約20%まで減少していた。さらに、正常なマウスにはOAHFAに由来する他のオメガ水酸化脂質(タイプ1オメガワックスジエステル、タイプ2オメガワックスジエステル、コレステロールOAHFA)が存在すること、また、これらがTg-Cyp4f39 KOマウスで消失していることを見出した。これらOAHFAを含む4つのオメガ水酸化脂質とその他の主要なマイバム脂質(コレステロールエステル、ワックスモノエステル)の極性を比較すると、OAHFA>OAHFA以外のオメガ水酸化脂質>その他の主要なマイバム脂質の順に極性が高いことがわかった。この結果は、油層から水層にかけて徐々に極性を増加させていく(極性の勾配を形成する)ことで、油と水を馴染ませていることを意味している。

このように、(OAHFAおよびOAHFA派生物)の産生にCyp4f39が関わることが見出され、これらの脂質が涙液中で極性の勾配を形成することで涙液を安定化させ、ドライアイを防止していることがわかった。

今回の研究成果により、ドライアイの防止における正常な油層の形成の重要性が明らかになった。現在のドライアイ治療薬には液層をターゲットにしたものしか存在しない。同研究成果は、油層をターゲットとした新たな点眼薬の開発につながることが期待される。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • うつ病患者、「超低周波変動・超微弱磁場環境治療」で抑うつ症状が改善-名大
  • 食後インスリン分泌に「野菜を噛んで食べること」が影響する機序解明-早大ほか
  • 難治性骨折の治癒促進するプラズマ照射法を開発、損傷部強度3.5倍に-大阪公立大
  • 5歳児の2割弱に睡眠問題あり、弘前市の未就学児の調査結果-弘前大
  • 水虫治療薬テルビナフィン耐性に関与の白癬菌タンパク質同定-武蔵野大ほか