医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 舌で「おいしい塩味」を感じる仕組みを、分子レベルで解明-京都府医大

舌で「おいしい塩味」を感じる仕組みを、分子レベルで解明-京都府医大

読了時間:約 3分3秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年04月01日 PM12:00

ENaCとCALHM1/3チャネルを同時に発現する細胞集団が塩味細胞と同定

京都府立医科大学は3月25日、マウスを用いた実験で、舌にある塩味を感じる細胞(塩味受容細胞)を同定し、さらに、この細胞で塩味の情報が変換され、脳へと伝えられる仕組みを分子レベルで解明したと発表した。これは、同大大学院医学研究科 細胞生理学の樽野陽幸教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米国科学雑誌「Neuron」に掲載されている。


画像はリリースより

ヒトは、食塩()を「おいしさ」のせいで取り過ぎてしまうため、塩の過剰摂取が、さまざまな⼼⾎管疾患の引き金である「」の最⼤のリスク因⼦となっている。世界保健機関(WHO)をはじめ、全世界で減塩が推奨されているが、これまでは塩味を感じる仕組みが理解されていなかったために、経験的な減塩戦略に頼らざるを得ず、その効果は限定的だった。

塩味に関しては、Na+を検知するセンサー分⼦が上⽪型ナトリウムチャネル()であることがわかって以来、 を発現する塩味受容細胞(塩味細胞)の正体は30年以上もの間不明のままだった。さらに、塩味細胞がどのようにして塩味情報を変換し神経に伝えているのかについても⻑年の謎だった。塩味研究が遅れていた要因の1つとして、細胞をNa+で刺激して細胞応答を測定するのが難しいということがあった。これは、Na+が正常な細胞機能の維持にも必要なため、細胞外のNa+濃度を変えることができなかったためである。そこで研究グループは、あらかじめENaC阻害剤を作⽤させておいた細胞(=ENaCが抑制された状態)から、阻害剤を瞬時に除去するという手法を考案した。これにより、Na+濃度を変えずにENaCだけを活性化させたときの細胞応答を記録できるようになった。

次に、ENaCをもつ細胞が緑色に光る遺伝⼦改変マウス(ENaCα-GCaMP3マウス)を作製した。このマウスの味蕾には、緑⾊に光る細胞が見られる。この中に塩味細胞があると予想されるので、緑⾊に光る味蕾細胞一つひとつを⽣きたまま採取して、先の⽅法を⽤いてENaCを活性化させたときの細胞応答を解析した。その結果、ENaCを介したNa+流⼊が起こった時に応答を⽰す細胞の記録に成功した。この細胞のさらなる詳細な解析の結果、ENaCをもつ細胞集団の中でも、CALHM1/3チャネルをもつ細胞だけが塩味細胞として機能することを突き止めた。

さらに、食塩を好む⾏動(嗜好性⾏動)や、⾆と脳をつなぐ神経(味神経)の食塩に対する応答が、ENaCを欠損したマウスやCALHM1/3チャネルを⽋損したマウスでは損なわれていた。このように、塩味受容に関与する分子、細胞の機能から個体の行動までを包括的に解析した結果、味蕾で塩味を作り出す細胞およびその塩味受容の仕組みが明らかになった。

新たな塩味受容メカニズムが明らかになったことで、将来的に「おいしい減塩」が実現する可能性

今回の研究の主なポイントは以下の3点。

(1)塩味細胞の同定:数ある味蕾細胞のうち、ENaCとCALHM1/3チャネルを同時に発現するという特徴を持った細胞集団が塩味の受容を担当する細胞、すなわち塩味細胞であることを突き止めた。

(2)塩味細胞が食塩に応答して活性化する仕組みを解明:まず、ENaCを介して細胞内にNa+が流⼊すると、Na+はプラスの電荷を帯びているため、それによってNavチャネルが活性化し、さらなるNa+流⼊が起こる。このNavチャネルを介したNa+流⼊は、塩味細胞に⼤きな電気的インパルス(活動電位)を発⽣させることになる。この活動電位に応答したCALHM1/3チャネルが神経伝達物質ATPを放出し、味神経(⾆から脳へと味覚情報を伝える神経)を活性化させることで塩味を⽣じさせている。実際に、超解像顕微鏡で塩味細胞の微細な構造を観察すると、塩味細胞のうち味神経と接している部分にCALHM1/3チャネルが配置されていることがわかるという。

(3)新たな塩味受容メカニズムの存在の発見:これまでは、ENaCだけがおいしい塩味を感じるためのセンサーであると考えられてきた。同研究でも、ENaCを⽋損したマウスは低濃度の⾷塩に対しては嗜好性⾏動を⽰さなかった。しかし、高濃度の食塩(240mM、480mM)に対しては、弱いながらもまだ嗜好性行動を示し、ENaC非依存的な塩味受容メカニズムの存在が新たに示唆された。この食塩濃度は、ざるそばのつゆや漬物の調味液と同程度と言われている。つまり、同結果は、塩のおいしさをつくる仕組みが多様であることを明らかにしており、ヒトの複雑な塩味感覚を科学的に説明するための糸口になると考えられる。

今回の研究成果により、食塩をおいしく感じる仕組みが、世界で初めて細胞および分子のレベルで解明された。将来的に、これらの細胞や分子を標的とした科学的かつ効果的な減塩食品の開発が加速し、「おいしい減塩」が実現することで、さらなる健康長寿社会の実現につながるものと期待できる。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 平均身長の男女差、軟骨の成長遺伝子発現量の違いが関連-成育医療センターほか
  • 授乳婦のリバーロキサバン内服は、安全性が高いと判明-京大
  • 薬疹の発生、HLAを介したケラチノサイトでの小胞体ストレスが原因と判明-千葉大
  • 「心血管疾患」患者のいる家族は、うつ病リスクが増加する可能性-京大ほか
  • 早期大腸がん、発がん予測につながる免疫寛容の仕組みを同定-九大ほか