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有効な治療薬のない「線維症」の発症に伴いRBM7発現上昇、創薬ターゲットに-阪大

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2020年03月23日 AM11:00

線維症は重篤な疾患だが発症メカニズムは不明な点が多い

大阪大学は3月18日、新しい線維症関連遺伝子RBM7を発見し、この遺伝子による線維症発症メカニズムの一端を解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の福島清春招へい教員、免疫学フロンティア研究センターの佐藤荘准教授、審良静男特任教授(常勤)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Immunity」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

肺線維症は診断後3~5年で約半数が死亡する非常に重篤な疾患。腎線維症や肝臓の線維症である肝硬変も同様に、有効な治療法が未だ存在していないために不治の病とされている。これまで病態解析について数多くの研究がなされ、各種の知見が蓄積されているものの、未だ線維症の発症メカニズムは不明な点が多く残されていた。線維症の発症には免疫細胞が関与していると考えられてはいたが、どの免疫細胞が線維化の発症に関わるかは不明だった。審良教授らの研究グループでは線維化の進行とともに患部に集まる単球が線維症の発症に関与していることを解明し、この単球が、これまでに報告のない新しい細胞であったために、「Segregated nucleus containing atypical monocyte()」と名付けて報告した。そして、次に解き明かす命題として、SatMの線維化部位への遊走メカニズムおよび線維化の開始時期に各臓器でおこる現象・変化を解き明かすことが重要であると考えた。

免疫/非免疫細胞の相互作用が線維症発症の鍵、RBM7発現上昇で非免疫細胞死誘導

今回、研究グループは、マウスのブレオマイシン肺線維症モデルにおいて線維化期の肺から分泌されるケモカインであるCXCL12がSatMの遊走に重要な役割を果たしていることを発見。加えて、このCXCL12は非免疫細胞、特に傷害を受けた上皮で細胞死に伴い高度に誘導されることを見出した。これにより、非免疫系(免疫系の周辺環境)の研究が線維症のメカニズムの解明のために重要であると考え、非免疫細胞において網羅的な遺伝子発現解析を実施。その結果、線維化の発症に伴って高度に発現が上昇する遺伝子/タンパク質としてRBM7を同定した。

RBM7はRNAを認識して、その分解に関わることはわかっていたが、生体における役割はほとんどわかっていなかった。そこで、RBM7の生体内での機能解析を行うために、ノックアウトマウス(-/-)を作製し、解析を行った。すると、-/-マウスでは患部へのSatMの集積が起こらず、線維症が強く抑制されていることを見出した。さらに、RBM7は線維化期の肺上皮で上昇し、この時期に起こる持続的な肺上皮細胞死の原因となっていることも明らかとなった。RBM7が線維化に伴って起こる細胞死に関わる分子メカニズムを解明するため、本分子と結合するRNAを同定するRNA免疫沈降実験及びRBM7の有無により発現が変動する遺伝子を検索するRNA-seq解析を行った結果、NEAT1というlong non-coding RNAの分解に関わることが明らかになった。さらに、そのNEAT1が形成する核内構造体(NEAT1-speckle)の中には、DNAに入ったダメージを修復する機能を持つタンパクであるBRCA1が局在していることと、Rbm7欠損下ではBRCA1の核内分布が変化することにより、細胞死の誘導が起こることが明らかになった。RBM7は肝臓・腎臓においても線維化に伴い顕著に発現が上昇し、-/-マウスは肝臓・腎臓の線維化も著しく抑制した。また、非常に重要なことに、RBM7はヒトにおける肺線維症・・腎硬化症などの線維化を伴う病態において、疾患の発症に伴って発現が高度に上昇していることもわかった。

今回の研究により、線維化期に特異的に誘導されるRBM7という遺伝子が線維症の発症に関与していることが解明された。そして、線維化が始まってからであっても、核酸を用いてRBM7の発現を抑制すると、その時点から病態の進行が抑制されることも明らかとなった。研究グループは、「RBM7はヒト線維症患者においても発現が上昇していることから、本研究で得られた知見を利用して、RBM7を標的とした治療法が開発されれば、これまで有効な薬のなかった線維症に対して高い効果を示す薬が得られることが期待される。既に、製薬企業と本分子を標的とした創薬活動が開始されている」と、述べている。

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