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虫歯や食中毒などの原因菌が持つ、新しい糖代謝の経路を発見-愛媛大

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2020年01月14日 AM11:15

培養が難しく代謝経路の発見は困難とされていた「」と「

愛媛大学は1月10日、ベイロネラ属やカンピロバクター属といった人体に感染する病原性細菌に特異的に存在するL-フコース(デオキシ糖の1種)の新しい代謝様式を発見したことを発表した。この研究は、同大大学院農学研究科の渡辺誠也教授によるもの。研究成果は、生化学分野の専門誌「Journal of Biological Chemistry」のオンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

ベイロネラ・ラッティ(Veillonella ratti)は、(虫歯)や歯周病の原因菌として、・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)は下痢症や食中毒の原因菌として、それぞれ広く知られている。これらの菌は、人体内で糖や有機酸を栄養源として増殖しているが、生育に酸素を嫌う絶対嫌気性で、培地も特殊で病原性もあることから、直接培養による詳しい解析は困難だ。一方で、ゲノム配列がわかっているものは多く、そこに存在する膨大な遺伝子の中に、未知の代謝経路が眠っていると考えられている。

渡辺教授は、微生物のゲノム上の遺伝子の集まり(クラスター)から糖代謝に関連すると考えられるものを抽出し、そこから作られるタンパク質(酵素)の基質候補化合物ライブラリーからスクリーニングすることで多くの分解経路を発見してきており、今回も同様の手法を用いて研究を行った。

FucHの働きを阻害する化合物が、幅広い病気への創薬シーズとして使える可能性

人体においてL-フコースは、上皮細胞から分泌されるムチンと呼ばれる粘性のある糖タンパク質の糖鎖成分として大量に存在しており、体内に生息する細菌は自ら持つムチン分解酵素によって遊離させることで栄養源にしている。例えば、有名な腸内細菌である大腸菌や乳酸菌は、L-フコースを分解の途中でリン酸化する経路を持っている(経路1)。細菌の持つL-フコースの代謝経路としては、ほかにリン酸化ステップがなく、L-2-ケト-3-デオキシフコン酸(L-KDF)と呼ばれる中間体を経て、最終的にピルビン酸とL-乳酸になるものが知られている(経路2)。こうした代謝経路に関わる遺伝子は、ゲノム上でしばしばクラスターを形成している。

これらの情報をもとにV. rattiとC. jejuniのゲノムを探索したところ、興味深い遺伝子クラスターが発見されたが、そこには経路1や2とは異なる機能未知遺伝子()が含まれていた。FucHはDHDPS/NALと呼ばれるタンパク質ファミリーに属しており、その中には2-ケト-3-デオキシ糖酸を基質とする酵素がいくつか含まれている。そこで、L-KDFを含む9種類の化合物ライブラリーを準備して精製したタンパク質と反応させたところ、FucHはL-KDFをピルビン酸と、L-ラクトアルデヒドに変換する新規アルドラーゼであることが判明した。また、FucH周辺の遺伝子の解析から、L-ラクトアルデヒドは、V. rattiでは(嫌気的条件下の経路1のように)還元されて、1,2-プロパンジオールに、C. jejuniでは酸化されて(経路2と同じ)L-乳酸に変換されることがわかり、これにより、第3のL-フコース分解経路の全容が明らかとなった。

分子生物学が勃興する前まで、新たな酵素の発見は(微生物の)無細胞抽出液中の活性を指標に行われた。L-KDFアルドラーゼ(FucH)は、存在すら知られていない全く新しい酵素だが、これを持つものが難培養性の嫌気性細菌に限定されているため、発見の糸口がつかめていなかったという。第3のL-フコース分解経路は、人間だけでなく人体に棲む大腸菌や乳酸菌などの善玉菌にもないことから、FucHの働きを阻害するような化合物が幅広い病気への創薬シーズとして使える可能性がある。渡辺教授は、「FucHは機能がわかっているタンパク質と比較してアミノ酸配列の類似性が30%以下しかない典型的な「機能未知遺伝子」だったが、今回初めて生理的役割を解明することができた。これからもこうした新規酵素の発見を目指して研究を進めていく」と、述べている。

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