長時間労働で「仮面高血圧」リスク増
長時間労働は血圧に悪影響を与えることが、ラヴァル大学(カナダ)社会医学・予防医学のXavier Trudel氏らによる研究から明らかになった。カナダ・ケベック州の公的機関で働く3,547人のホワイトカラー労働者を対象に、労働時間と血圧値を5年間にわたって追跡したこの研究では、週当たりの労働時間が35時間未満の人と比べて、週に49時間以上働く人では「仮面高血圧」のリスクが70%高いことが分かった。結果の詳細は「Hypertension」12月19日オンライン版に掲載された。

画像提供HealthDay
仮面高血圧とは、診察室で測定した血圧値は正常でも、家庭で測ると高血圧という状態を指す。研究では、週49時間以上働く人では、診察室でも家庭でも血圧値が高い「持続性高血圧」のリスクが66%高いことも示された。さらに、週当たりの労働時間が41~48時間の人でも、仮面高血圧リスクは54%高く、持続性高血圧リスクは42%高いことが分かったという。
なお、研究対象の労働者全体において、既に降圧薬を服用している人を含めた持続性高血圧患者の割合は19%だった。また、降圧薬は服用していないが、仮面高血圧がある人の割合は13%を超えていた。また、Trudel氏らは今回、年齢や職種、喫煙習慣や肥満の有無などの因子のほか、仕事の要求度(仕事量や仕事に伴う緊張の度合いなど)と裁量権の2つの要素の組み合わせで決まる「ジョブ・ストレイン」を考慮した上で解析した。
Trudel氏によれば、この研究は因果関係を証明したものではなく、長時間労働と高血圧が関連する背景は明らかになっていないという。しかし、同氏らは「今回の研究では、男女ともにこれらの関連が認められた」と説明している。
また、今後の展望について、Trudel氏は「将来的には、子どもの人数や家事、育児の分担など家庭での役割に関係する因子が、仕事の状況と相互に作用して血圧を上昇させている可能性についても検討したい」と話している。
ただし、この研究はホワイトカラーの労働者のみを対象としているため、Trudel氏らは「シフト勤務者や肉体労働者には、今回の結果は当てはまらない可能性がある」と強調している。また、同氏は「長時間労働は心臓の健康に悪い可能性があることを知っておくことが重要だ」とし、「労働時間が長い人は、ウェアラブルな家庭血圧計の使用について医師に相談するとよい」と助言している。
なお、この助言について、2人の専門家も同意している。米ノースウェル・ヘルス傘下のサンドラ・アトラス・ベイス心臓病院のBenjamin Hirsh氏は「“サイレントキラー”にもなりうる仮面高血圧は、ウェアラブル血圧計を使えば簡単に診断できる」と話している。一方、米レノックス・ヒル病院のSatjit Bhusri氏は「仮面高血圧を未診断のまま放置すると、心筋梗塞や脳卒中の発症リスクが高まる」と指摘。「医師は、患者の仕事内容や職場環境などの背景について把握しておく必要がある」としている。
▼外部リンク
・Long Working Hours and the Prevalence of Masked and Sustained Hypertension

Copyright c 2020 HealthDay. All rights reserved.
※掲載記事の無断転用を禁じます。