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仕事で殺虫剤の使用頻度が高い父親ほど、男児が生まれる割合が低い傾向-兵庫医大

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2019年12月26日 AM11:30

化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を調べるために開始された「

兵庫医科大学は12月24日、父親の化学物質への職業性ばく露と出生児の性比の関連について解析した結果、パートナーの妊娠前に週に1回以上殺虫剤を使用する職に就いていた父親では、生まれてきた子ども全体に占める男児の割合が低くなっていたことを発表した。この研究は、同大のエコチル調査兵庫ユニットセンターが中心となって行ったもの。研究成果は、環境保健の専門誌「The Lancet Planetary Health」に掲載されている。


画像はリリースより

エコチル調査は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、2010年度より全国で10万組の親子を対象として開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査。母体血や臍帯血、母乳等の生体試料を採取保存・分析するとともに、参加する子どもが13歳になるまで追跡調査し、子どもの健康に影響を与える環境要因を明らかにすることを目的としている。同調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために、公募で選定された15の大学に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省とともに各関係機関が協働して実施。調査期間は5年間のデータ解析期間を含み、2032年度までを予定している。

一方、日本の出生性比は、1968~1980年には出生女児100人に対し男児が106~107人だったが、1981年以降の男児は105~106人とわずかに低下している。これは日本だけではなく、他の先進国でも生まれる男児の割合が減少傾向にあることが報告されている。これまでの研究では、子どもが生まれる前に両親が特定の化学物質にばく露することが、生まれる子どもの性比に影響を与える可能性が指摘されている。しかし、これらの研究の多くは断面研究であり、出生コホート研究では妊娠時の親の化学物質へのばく露と生まれてくる子どもの性比との関連はほとんど報告されていなかった。

そこで研究グループは、エコチル調査で得られたデータを使用し、妊娠前に父親が仕事で使用してばく露された化学物質およびその頻度と、生まれてくる子どもの性比との関連性について、疫学的な手法を用いて検討を行った。

殺虫剤を使用しない父親から生まれる男児の割合51.1%に対し、週1回以上の使用では44.5%

研究では、妊娠中の両親に対する自記式質問票に有効な回答があり、出生時の産科医師による医療記録から子どもの性別が判明した50,283名(男児25,657名、女児24,626名)のデータを使用した。23種類の化学物質について、パートナーの妊娠が判明するまでの約3か月間に、父親が仕事で半日以上かけて使用した頻度を回答してもらい、生まれてきた子どもの性別の割合を比較。また、父親の職業分類、両親の年齢、飲酒歴、喫煙歴、社会経済状態等を考慮した修正ポアソン回帰モデルによって検討し、男児が生まれる割合を比較した。さらに、母親が妊娠初期に仕事で使用した化学物質の種類とその頻度について考慮した解析も行った。

その結果、仕事で殺虫剤を使用することがない父親(42,185名)のパートナーから生まれた子どもの男児の割合は51.1%だったが、月に1~3回使用する父親(4,551名)では50.7%、週1回以上使用する父親(659名)では44.5%であり、使用頻度が高くなるほど男児の割合が低いという結果だった。医療用消毒剤についても、週1回以上使用する父親(2,428名)のパートナーから生まれた子どもの男児の割合は48.9%であり、使用することがない父親(43,214名)の51.1%よりも低くなっていた。

さらに、父親の職業分類、両親の年齢、飲酒歴、喫煙歴、社会経済状態について統計学的に調整したところ、仕事で殺虫剤を使用しない父親(不使用群)での男児の生まれる割合を1としたときに、月に1~3回使用する父親では男児の生まれる割合の不使用群に対する比が約0.96(約4%減)、週1回以上使用する父親では0.86(約14%減)となっていた。医療用消毒剤については、仕事で使用しない父親(不使用群)において、生まれてきた子ども全体に占める男児の割合を1としたときに、週1回以上使用する父親では、男児の生まれる割合の不使用群に対する比が0.95(約5%減)となっていた。こうした関連性は、母親が妊娠初期に仕事で使用した化学物質の種類とその頻度について考慮してもほとんど同様で、また、父親の仕事でのその他の化学物質の使用と出生した子どもの性比との関連はなかったという。

水銀や放射線を使用する仕事に関しては、子どもの性比との関連は認められず

今回の研究では、パートナーの妊娠前に父親が仕事で殺虫剤や医療用消毒剤を使用すると、生まれてくる子どもの男児の割合が低いという結果となり、特に殺虫剤の使用との関連は顕著だった。一方で、水銀や放射線を使用する職に関しては、子どもの性比との関連は認められなかった。これまでに発表された他の研究には、父親が高濃度の水銀や放射線にばく露されることにより、子どもの男児の割合が低くなるという報告があるが、同研究の結果は、それらの先行研究とは一致していない。また、殺虫剤の使用と性比との関連についての報告は過去に無く、同研究を支持する成果が後に得られるかが重要であり、今後、両親の生体試料中の化学物質や、その代謝物の濃度と子どもの性比との関連について検討を進めるなど、さらなる知見の蓄積が必要となる。

なお、今回の調査における仕事での化学物質の使用やその頻度は、質問票への回答により評価したもので、血中の化学物質濃度などの客観的な指標を用いたものではない。また、殺虫剤の種類までは未調査だ。そのため、これらの点に留意する必要があるとしている。

研究グループは、「エコチル調査では、妊娠中の両親の血液などの生体試料を採取して、化学物質濃度などの分析を行っており、子どもの発育や健康に影響を与える化学物質等の環境要因を明らかにするために、引き続き調査を進めていく」と、述べている。

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