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ゲノムワイド関連解析で、中心性漿液性脈絡網膜症に関わる遺伝子変異を発見-京大ほか

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2019年12月17日 AM11:30

加齢黄斑変性との区別が困難な「

京都大学は12月13日、10,476人の日本人と4,098人の欧州人のデータ解析により、人種を越えて中心性漿液性脈絡網膜症に強く関与する2つの遺伝子(TNFRSF10A、GATA5)を同定したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科眼科学 三宅正裕特定助教、辻川明孝同教授、細田祥勝同博士課程学生が、大津赤十字病院 山城健児眼科部長らと共同で行ったもの。研究成果は「Communications Biology」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

中心性漿液性脈絡網膜症は、黄斑部に網膜剥離が起こる疾患で、40~50代の男性によく見られる。この網膜剥離は自然に軽快することが多いため、かつては良性の疾患と考えられていた。しかし近年、この疾患の一部は長期経過で、通常は存在しない血管が黄斑部に生じ(パキコロイド新生血管)恒久的な視力障害を引き起こすことがわかってきた。これらは、先進国の主要失明原因のひとつである加齢黄斑変性と類似する所見を示し区別が難しいため、これまで加齢黄斑変性と診断された一部(19.5~44.5%)は、中心性漿液性脈絡網膜症由来のパキコロイド新生血管であったのではないかとも考えられるため、病態解明が重要な課題のひとつとなっている。

京大学医学研究科眼科学教室は、かねてよりパキコロイド新生血管に注目し研究を行ってきたが、現象論的な研究が主体で、分子生物学的な機序や病態はほとんど解明されていない。そこで今回研究グループは、分子生物学的な機序や病態に迫る手がかりを得るため、ゲノム疫学の手法を用いた解析を行った。

中心性漿液性脈絡網膜症の病態に関与する網膜色素上皮/脈絡膜における発現を、他人種を含む集団データで確認

まず、京大医学部附属病院で遺伝子解析の同意を得た610人の中心性漿液性脈絡網膜症罹患者と、2,850人の対照群に対して、ゲノム全体にある約300万個の一塩基多型(SNP)の頻度情報をもとに、ゲノムワイド関連解析を行った。関連を示唆する結果が得られた2つのSNPは、さらに他の2つの日本人集団のデータと、1つの欧州人集団のデータを用いて再現性を評価した。トータルで10,476人の日本人データと4,098人の欧州人データが解析に用いられ、遺伝子TNFRSF10A中のrs13278062と、遺伝子GATA5の近傍のrs6061548が、再現性をもって中心性漿液性脈絡網膜症に関連していることが確認された。

正常眼組織におけるこれら2つの遺伝子の発現を確認したところ、いずれも網膜と網膜色素上皮/脈絡膜の双方に発現が見られた。特に、中心性漿液性脈絡網膜症の病態に関与すると考えられている網膜色素上皮/脈絡膜における発現が強く、これらの発現の変化が病態に関連している可能性が示唆された。同研究成果は、ゲノムワイド関連解析の結果の再現性を、他人種を含む複数の集団のデータで確認しているもので、信頼性は高いと言える。これにより、これまであまり研究が進んでいなかった中心性漿液性脈絡網膜症の分子生物学的な機序や病態に光を当てるものであり、同分野の進展が強く期待される。

TNFRSF10A中のrs13278062は、過去の信頼性の高い論文で、加齢黄斑変性に関与するSNPとして報告されているが、過去の論文に用いられた加齢黄斑変性の一部(19.5~44.5%)が中心性漿液性脈絡網膜症由来のパキコロイド新生血管であったと仮定すると、今回中心性漿液性脈絡網膜症と強い関連を示したTNFRSF10A中のrs13278062と全く同じSNPが、過去に加齢黄斑変性に関与すると報告されていたことの説明がつくという。研究グループは、「今後、他施設とのメタ・ゲノムワイド関連解析により中心性漿液性脈絡網膜症と関連する変異をさらに同定することで、中心性漿液性脈絡網膜症のさらなる病態解明につなげるほか、中心性漿液性脈絡網膜症からパキコロイド新生血管が生じることに関連する遺伝子も探索し、これらの取り組みにより、パキコロイド新生血管と加齢黄斑変性の病態解明にもつなげていきたいと考えている」と、述べている。

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