医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 精神疾患に対する教育内容改善、スティグマ(差別・偏見)の軽減へ-東大と神経研

精神疾患に対する教育内容改善、スティグマ(差別・偏見)の軽減へ-東大と神経研

読了時間:約 3分23秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2019年11月25日 PM12:00

精神疾患に関する教育に「生物医学的内容」を含めるのは有効か検討

国立精神・神経医療研究センターは11月22日、精神疾患に対するスティグマ(Stigma;差別や偏見)に対する効果を1年間に渡り比較検証した結果を発表した。この研究は、東京大学大学院総合文化研究科 進化認知科学研究センター/国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 地域・司法精神医療研究部の小塩靖崇研究員、山口創生室長、東京大学大学院医学系研究科 脳神経医学専攻臨床神経精神医学講座の太田和佐特任助教、安藤俊太郎講師、東京大学大学院総合文化研究科 進化認知科学研究センターの小池進介准教授らの研究グループによるもの。成果は「Epidemiology and Psychiatric Sciences」のオンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

「スティグマ」は、元来は鋭利な器具で刺されたあと皮膚に残る、消せない傷痕を示す言葉だった。それは、浮浪者や奴隷を見分けるものとして機能していた時もあった。そこから転じ、何らかの形で道徳的に劣っているがゆえ、身体へ染みを付けられ、汚された人を指し示すために、比喩的な意味でスティグマという言葉が用いられるようになっている。精神疾患に対するスティグマの軽減戦略として、「精神疾患を持つ人と会って話す機会を持つ」という経験が最も効果が大きいことが明らかにされているが、「精神疾患について知ること」も、スティグマ軽減に有効だとされている。精神疾患に関して何を知るかについては、専門家合意により(2010年時点)、心理社会的内容が推奨されてきた。その内容は「回復へのメッセージ」(精神疾患患者の多くは回復につながりうる)、「社会的包摂」(精神疾患患者は、働く権利があり、働き続けるための支援を受ける権利を持つ)、「精神疾患が一般的であるという疫学知見」(精神疾患は生涯で4~5人に1人が経験する)だ。

一方で、その専門家合意によると、精神疾患の生物医学的内容(精神疾患は脳の疾患である、遺伝の影響等)は、スティグマ軽減に効果がないだけでなく、増長させる可能性もあると考えられている。生物医学的知識とスティグマの程度を調べた観察研究により、精神疾患の生物医学的知識が高い人ほどスティグマが強いという結果が示されている。最近になり、医学的治療メカニズムや回復可能性を生物医学的背景に基づいて説明した教育により、スティグマ軽減に効果を示したという知見が発表されているものの、無作為化比較試験は行われておらず、精神疾患に関する教育内容に生物医学的内容を含めるべきか否かの議論は続いている。

無作為化試験実施、生物医学的内容も合わせた教育プログラムの必要性確認

研究グループは、一般人179人(15~57歳、平均22歳)を「生物医学的内容グループ」(90人)と「専門家合意による推奨内容(心理社会的内容)グループ」(89人)に無作為に割り付け、10分間のスライドを使った講義を実施し、それぞれの精神疾患へのスティグマに対する教育効果を1年間に渡り比較検証する研究を行った。講義前、講義直後、1か月後、1年後の4時点で自記式質問紙を用いて評価。質問紙には、スティグマの程度を評価する項目として、精神疾患の適切な知識、精神疾患をもつ人との経験や行動の意図、援助希求意図、精神不調の開示意図に関する尺度が含まれた。

また、「生物医学的内容グループ」の講義では、精神疾患の発症は脳に原因があること、その原因の1つに神経伝達物質のアンバランスがあること、医学的治療として用いられる治療薬はこうした脳のアンバランスを整える働きを持つこと、精神不調を引き起こす原因として遺伝と環境の双方があることを含め、医学的治療のメカニズムや回復可能性を生物医学的背景に基づいて説明。「専門家合意による推奨内容(心理社会的内容)グループ」の講義は、回復へのメッセージ、社会的包摂、精神疾患が一般的である疫学知見が含まれた。

結果、両グループともに、精神疾患の適切な知識は、講義直後、1か月後、1年後に向上し
、精神疾患をもつ人との経験や行動意図については、両グループとも、講義直後、1か月後に改善が確認された。援助希求意図は、両グループとも講義直後に改善。精神疾患の適切な知識、精神疾患をもつ人との経験や行動の意図、援助希求意図のそれぞれの変化について、グループ間で差はみられなかった。精神不調の開示意図は、講義直後に心理社会的内容グループの方で改善の程度が大きく、1か月後では両グループでの改善が確認された。それぞれの性別と年齢による影響についても検討。その結果、男性よりも女性で、「心理社会的内容の教育」による、精神疾患をもつ人との経験や行動の意図に与える効果が持続されやすいことが確認された。また、成人群(21~57歳)よりも若者群(15~18歳)で「心理社会的内容の教育」による、精神不調の開示意図に対する効果がより大きいと確認された。

本研究成果は、無作為化比較試験を用いて、生物医学的内容の教育のスティグマ軽減戦略における有効性を示したもの。今後学校・職場・家庭などでの教育で知見の活用が期待されるが、特に、2022年度から開始される高等学校新学習指導要領には精神疾患が扱われ、教育内容には「精神疾患への差別や偏見(つまりスティグマ)」も含まれる。公教育で扱われるのは約40年ぶりのことで、教育プログラム開発は急務だ。「内容の検討の際には、本研究知見を活用し、心理社会的内容だけでなく生物医学的内容も合わせた内容を含める必要がある」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • パーキンソン病の原因「αシヌクレイン」のアミロイド線維形成過程を一部解明-金沢大ほか
  • モガムリズマブ抵抗性のATLリンパ節病変にブロモドメイン阻害剤が有用な可能性-名大
  • 40歳以上の夫婦は同じ生活習慣病にかかりやすいと判明-筑波大
  • 高齢者における社会からの離脱には段階があることが明らかに-都長寿研
  • 日本人の関節リウマチ合併の間質性肺炎に関わる遺伝子領域をGWASで同定-阪大ほか