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周産期心筋症の発症、心臓で作られるホルモンの機能不全が関与する可能性-国循

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2019年11月13日 AM11:30

GC-A欠損マウスを用いて、妊娠中・産褥期におけるANP・BNPの生理的な役割について検討

国立循環器病研究センターは11月8日、心臓で作られるホルモン(ANP・BNP)の機能不全が周産期心筋症の発症に関与する可能性を世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同センター研究所・再生医療部の大谷健太郎上級研究員、生化学部の徳留健室長、産婦人科部の神谷千津子医長、寒川賢治理事長特命補佐らの研究グループによるもの。研究成果は、米国心臓協会の専門誌「Circulation」オンライン版に掲載された。

妊娠女性の体内では、胎児が成長するために必要な酸素や栄養素を子宮に運ぶために、循環血液量の増加・心拍出量の増大・心拍数の増加など、循環器系にさまざまな変化が生じる。通常、妊娠中に生じるこれらの変化は、出産により速やかに正常化するが、一部の妊産婦では、妊娠中から産褥期にかけて心機能の著しい低下による心不全()を発症することが報告されており、その発症メカニズムは十分に解明されていない。

一方、周産期心筋症と同様に妊娠中に発症する妊娠高血圧症候群の患者では、血液中のANP・BNP濃度が正常妊婦に比べて高いことから、妊娠中あるいは産褥期に発症する循環器系疾患にANP・BNPが関与する可能性が考えられる。しかし、妊娠中や産褥期におけるANP・BNPの役割については不明な点が多い。そこで、研究グループは今回、人為的にANPとBNPの共通の受容体であるGC-Aの遺伝子を欠損させた雌マウス(GC-A-KO)と、その対照群として野生型の雌マウス(WT)を用いて、妊娠中および産褥期におけるANP・BNPの生理的な役割について詳細に検討した。


画像はリリースより

ANP・BNP、、インターロイキン6が周産期心筋症の治療標的になり得る

まず、妊娠・出産・授乳がマウスの生存率に影響するか否かについて検討した結果、妊娠・出産・授乳を繰り返すと、WTに比べてGC-A-KOの死亡率が有意に高くなることがわかった。また、妊娠・出産・授乳を経験することで、GC-A-KOでは周産期心筋症に類似した心機能低下を伴う顕著な心肥大を呈することが明らかになった。これらの結果から、ANP・BNPは妊娠中および産褥期の心臓に対して保護的に作用していることがわかった。

次に、妊娠・出産・授乳のいずれの過程で周産期心筋症様の心肥大を発症するかを検討したところ、WTにおいても授乳期に軽度の心肥大を認め、GC-A-KOの心臓重量は授乳期に顕著に増大した。出産後に授乳を回避させることにより、GC-A-KOにおける周産期心筋症様の心肥大変化は有意に抑制されたという。これらの結果から、授乳によって心臓は生理的な肥大を来すこと、特にANP・BNPの機能不全がある場合には、授乳が心機能低下を伴う病的な心肥大を誘導することが明らかとなった。

また、WTに比べて、GC-A-KOでは授乳によって血液中のアルドステロン濃度の有意な上昇、および心臓におけるインターロイキン6遺伝子の発現増加を認めた。そこで、アルドステロンの作用を阻害するミネラロコルチコイド受容体拮抗薬、あるいは抗インターロイキン6受容体抗体を授乳期に投与したところ、いずれの薬剤もGC-A-KOにおける周産期心筋症様の心肥大に対して抑制的に作用することがわかった。以上の研究結果から、妊娠中だけでなく、授乳期においても心臓は生理的な肥大を起こすこと、ANP・BNPは授乳期の心臓に対して保護的に作用すること、ANP・BNP、アルドステロン、およびインターロイキン6は、周産期心筋症の治療標的になり得ることが明らかになった。

日本における周産期心筋症の発症頻度は、約2万出産に1人と報告されている。周産期心筋症になりやすい因子として、高齢出産、多産、多胎、妊娠高血圧症候群の合併などが知られており、晩婚化・晩産化が進む日本においては、今後周産期心筋症の発症頻度が上昇することが懸念される。研究グループは、今回の研究成果を基にした、周産期心筋症に対する新たな治療法の開発が期待される、と述べている。

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