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「ロカボ食で減量」のメカニズム解明、腸内環境の変化も重要-東京農工大

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2019年11月06日 AM11:45

ケトン食は健康への寄与が期待されるも、メカニズムは未解明だった

東京農工大学は11月1日、低炭水化物食や断続的断食がもたらす体脂肪重量の効率的な減少効果に、飢餓のようなエネルギー不足時にグルコースの代替エネルギー源として産生されるケトン体の一種であるアセト酢酸とその受容体、そして腸内環境の変化が密接に関わっていることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院農学研究院応用生命化学部門の木村郁夫教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載されている。


画像はリリースより

ケトン体(主にβ-ヒドロキシ酪酸とアセト酢酸)は、飢餓時のようなグルコースが枯渇した状態において肝臓で産生され、速やかに脳や他の組織でグルコースの代わりに利用される、非常に重要な代替エネルギーとして知られている。このうち、β-ヒドロキシ酪酸は単なるエネルギー源としてだけではなく、Gタンパク質共役型受容体であるGPR109AやGPR41を介してシグナル分子として生体生理機能にまで関わることが、研究グループのこれまでの報告を含めて明らかにされてきた。一方で、アセト酢酸の特異的な受容体は発見されていなかった。また、低炭水化物食や中鎖脂肪酸食のようなケトン体産生が誘導されるケトン食や断続的断食などは、寿命の延伸、効率的な減量効果や脳機能改善など、健康に寄与することがマウス実験から期待されているが、実際にケトン体によるその詳細な作用機序は不明な部分が多く残されていた。

アセト酢酸の受容体はGPR43、ケトジェニック環境下で全身のエネルギー利用亢進

今回研究グループは、モノカルボン酸リガンドスクリーニングという方法により、Gタンパク質共役型受容体のひとつGPR43が、アセト酢酸の受容体であることを新たに発見。本来GPR43は、短鎖脂肪酸により活性化される受容体として知られており、生体のエネルギー代謝や免疫機能に重要な役割を果たしている。この短鎖脂肪酸は、食事中に含まれる食物繊維等の難消化性多糖類から腸内細菌発酵によって作られる主要代謝物であることから、短鎖脂肪酸受容体GPR43は腸内細菌と宿主をつなぐ重要な受容体として認識されてきた。

さらに研究グループは、ケトジェニック環境下、アセト酢酸によるGPR43刺激が、血中のリポ蛋白質リパーゼの活性を高めることで中性脂肪の分解を促進し、効率的に脂肪酸を組織に取り込む結果、脂質の利用を高める、すなわち脂肪の消費を優先的に進めることを明らかにした。通常の状態では、このGPR43は、腸内細菌が食事に含まれる食物繊維を分解して産生する短鎖脂肪酸によって、腸管及び血中を介して全身で活性化されている。これが、栄養状態の変化、すなわち、絶食、低炭水化物食や断続的断食を行うことにより、腸内細菌叢が変化し、腸内細菌により短鎖脂肪酸の産生が腸管内では著しく減少することを発見。一方で、このようなケトジェニック環境において、血中ケトン体は、通常状態の短鎖脂肪酸血中濃度の10倍以上に劇増する。すなわち、ケトジェニック環境下、全身ではアセト酢酸を介しGPR43は活性化される一方で、腸管では短鎖脂肪酸の減少によりGPR43が抑制される結果、全身での脂質代謝・エネルギー利用を亢進し、腸管では抑制されるという、栄養環境に依存した効率的エネルギー利用機構が明らかとなった。実際に、野生型マウスで見られるような、低炭水化物食や断続的断食による体重上昇抑制効果が、Gpr43遺伝子を欠損させたマウスにおいて消失することも確認された。

今回の研究により、飢餓(絶食)などのグルコースを正常に利用できないケトジェニックな環境や、断続的断食や低炭水化物食負荷において、腸内環境の変化や、ケトン体の一種であるアセト酢酸がGPR43を介して脂質代謝を制御することで、宿主のエネルギー恒常性に寄与することが明らかになった。これらの知見は、栄養シグナル分子としてのケトン体の生体調節機能における中心的メカニズムを示唆することにつながる。「今回の成果は、食事介入や栄養管理を介した先制医療や予防医学、さらにはケトン体受容体を標的とした代謝性疾患治療薬の開発に寄与する可能性が大いに期待される」と、研究グループは述べている。

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