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脳損傷後に損傷を逃れた脳の領域で新たな神経路が形成されることを発見-産総研と理研

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2019年10月09日 PM12:00

得意分野を生かし、共同で脳の機能回復メカニズムを研究

)は10月7日、脳損傷後に新たに形成される神経路を発見したと発表した。この研究は、産総研人間情報研究部門ニューロリハビリテーション研究グループの山本竜也協力研究員(つくば国際大学助教)、肥後範行研究グループ長、村田弓主任研究員と、)生命機能科学研究センター脳コネクトミクスイメージング研究チームの林拓也チームリーダー、合瀬恭幸専門技術員らによるもの。研究成果は、米国科学誌「Journal of Neuroscience」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

産総研は、脳損傷モデル動物の開発や、モデル動物を用いた脳の回復メカニズムの研究に関する知見を生かして、リハビリ支援技術の研究開発を行ってきた。一方、理研は、脳活動計測技術とその解析法を強みとしている。両者はこれまでにも共同で脳の機能回復メカニズムに関わる研究を行っており、モデル動物を用いて手の運動機能を担う脳の領域である第一次運動野に損傷を作製し、リハビリ運動課題を行わせた結果、数か月で手の運動機能が回復。このときに損傷周囲の「運動前野腹側部」が運動機能を代償することを明らかにした。その後も両者は脳の機能回復メカニズムの解明に向けて、研究を進めてきていた。

「運動前野腹側部」と「小脳核」との間に新たな神経路が形成されることを発見

脳機能の回復は、それを支える神経路の変化があって成立する。そのため、第一次運動野が担っていた運動機能を運動前野腹側部が代償することの背景として、リハビリ期間中に新しい神経路が形成された可能性がある。

研究グループは今回、健常時に第一次運動野を介した運動出力を行っている運動前野腹側部が、第一次運動野の損傷後に運動前野腹側部からの情報を伝えるために、どのような神経路の変化が生じているのかに着目。第一次運動野損傷後に運動前野腹側部で生じる神経路の変化を観察するために、ビオチン化デキストランアミン(Biotynilated Dextran Amine:BDA)と呼ばれる解剖学的トレーサーを用いた組織化学的解析を行った。

BDAは神経細胞(ニューロン)の細胞体に取り込まれ、軸索内を移動しその終末に至る。今回は、BDAを運動前野腹側部に注入し、1か月程度経過して神経細胞の終末に至った時にBDAを含む軸索終末(BDA陽性軸索終末)の分布を観察。これにより、運動前野腹側部が直接軸索を送って神経路を形成している領域を同定できる。

研究グループは、BDA陽性軸索終末の分布を、脳損傷を受けていない個体(健常個体)と、第一次運動野に損傷を作製して手の運動機能が回復した個体(脳損傷個体)とで比較。健常個体では存在しないが脳損傷個体には存在する神経路は、脳損傷後の機能回復過程で形成されたと考えられる。比較の結果、小脳からの出力を担う小脳核と呼ばれる領域でBDA陽性軸索終末の分布に差が見られ、健常個体の小脳核ではBDA陽性軸索終末が見られなかったのに対し、脳損傷個体の小脳核ではBDA陽性軸索終末が観察された。脳損傷個体の小脳核で見られたBDA陽性軸索終末は、脳損傷後の機能回復過程で新たに形成された神経路と考えられる。

次に、脳損傷個体の小脳核で見られたBDA陽性軸索終末が機能的なシナプスを形成しているのかを検証するために、BDAとシナプスの構成タンパク質の多重蛍光染色を行った。その結果、小脳核の神経細胞にBDA陽性軸索終末が結合する様子が見られ、BDA陽性軸索終末の一部はシナプス構成タンパク質を発現することが明らかになった。シナプス構成タンパク質はシナプスで情報伝達の役割を果たすため、この結果は、脳損傷後の機能回復過程で運動前野腹側部から小脳核に情報伝達可能なシナプスが形成されたことを示唆している。

運動前野腹側部から小脳核へ新たな神経路が形成される機能的意義は明らかになっていないが、小脳核から脊髄に至る神経路があることから、運動前野腹側部の情報を伝えるために、新しい代償的な運動出力路(運動前野腹側部→小脳核→脊髄)が形成された可能性がある。研究グループは「遺伝子レベルの変化、理研では神経ネットワークの構造変化を解析して、脳損傷後の機能回復に関わる詳細な過程を多角的に解明する。さらに、産総研を中心に、得られた知見を外部機関に展開し、連携による新しいニューロリハビリテーション技術(脳刺激技術やリハビリ促進薬)の開発を目指す」と、述べている。

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