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前立腺がん、日本人で若年発症を予測するゲノム診断手法を開発-理研ら

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2019年10月02日 AM11:15

約9,900人の前立腺がん患者、50万個以上のSNPをGWAS解析

理化学研究所は9月27日、オーダーメイド医療実現化プロジェクトで実施した網羅的ゲノム解析により、日本人の前立腺がんと関連がある一塩基多型()を新たに12個発見し、さらにこれらを含むこれまで発見された82個のSNPを組み合わせ、日本人の前立腺がんの若年発症を予測するゲノム診断手法を開発したと発表した。この研究は、理研生命医科学研究センターがんゲノム研究チームの中川英刀チームリーダー、岩手医科大学の髙田亮講師、京都大学の赤松秀輔助教、東京大学大学院新領域創成科学研究科の松田浩一教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。


画像はリリースより

前立腺がん発症の一般的な危険因子としては、人種(アフリカ人>欧米人>アジア人の順に多い)、欧米型の食生活、体内のホルモン環境、加齢などが挙げられるが、特定の危険因子はわかっていなかった。しかし、遺伝性前立腺がんの存在や、日本や欧米での研究により、前立腺がんの発症に関連する多数の遺伝子やSNPが発見されたことから、発症には遺伝的要因が深く関わっていることが明らかになってきている。

2010年と2012年に理研の研究チームは、オーダーメイド医療実現化プロジェクト/バイオバンクジャパン(BBJ)で収集した約5,000人の日本人サンプルを対象にゲノムワイドSNP関連解析を実施し、9個のSNPが日本人における前立腺がん発症と強い関連があることを発見した。今回、新たに約9,900人の日本人前立腺がん罹患者(BBJおよび慈恵医大)と約8万4,000人の男性対照群(東北大学東北メディカル・メガバンク機構、岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構などより検体の提供を受けた)に対して、ゲノム全体にある50万個以上のSNPの頻度情報をもとにゲノムワイド関連解析を行った。

82のSNP情報から発症リスクを予測、若年(60歳未満)で高スコア傾向

その結果、新たに12個のSNPが日本人の前立腺がんと強く関連することを発見。これらのSNPがあると、発症リスクがSNPの数1個につき1.12~1.31倍高まることがわかった。これまで、欧米人を中心とした研究で170個以上のSNPと前立腺がんの発症が証明されているが、今回の日本人の解析では、その約半数は日本人の前立腺がんとの関連は証明されず、前立腺がん関連のゲノムは人種間の差が大きいと考えられる。

がんや生活習慣病では、発症と関連する複数のゲノム情報やSNPを組み合わせて、発症のリスク診断(ゲノムリスクスコア、多遺伝子リスクスコア:)が行われようとしており、研究チームはこれまでに、日本人の前立腺がんに関連する16個のSNPを組み合わせ、日本人の前立腺がんの発症リスク予測モデルを構築してきた。今回、これまでに日本人の前立腺がん発症と関連が証明された合計82個(今回の研究より新たに発見された12個を含む)のSNP情報を組み合わせて、前立腺がん発症リスクを予測するゲノムリスクスコア()を開発。その上位5%の高リスク群(発症リスクが2.5倍以上)の臨床情報を解析した結果、若年発症(60歳未満)および前立腺がん家族歴のある症例が有意に多く含まれていた。さらに、発症年齢が若い群ほど、PRSでの高リスク群の割合が高くなることがわかったという。このように、関連するSNPを組み合わせることによって、特に治療介入が必要な若年発症の前立腺がんリスクの予測および診断ができるようになり、高リスクの男性は、頻回の前立腺がん検診や予防プログラムの対象になると考えられる。

今後、日本人の前立腺がんSNP関連解析をさらに進め、新たなSNPを発見できれば、PRSのような方法でSNPを多数組み合わせることが可能になり、より精度が高く、かつ日本人に合った前立腺がん、特に治療介入が必要な若年発症や悪性度の高い前立腺がんの発症リスク評価方法や診断方法の開発が進展すると期待できる。

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