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汗孔角化症、日本人の400人に1人が生まれつき発症素因を持つと判明-慶大ら

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2019年08月29日 PM12:00

メバロン酸経路の酵素遺伝子に1つの変異でなぜ発症するのか

慶應義塾大学は8月27日、(かんこうかっかしょう)という皮膚病になる生まれつきの素因を、日本人の400人に1人が持っていることを明らかにし、さらに、そのような人では、紫外線などにより後天的に皮膚の細胞のゲノムが変化すると、汗孔角化症の症状が全身の皮膚に多発することがわかったと発表した。この研究は、同大医学部皮膚科学教室の久保亮治准教授、国立成育医療研究センター周産期病態研究部の中林一彦室長らの共同研究グループによるもの。研究成果は、米国研究皮膚科学会の学術誌「Journal of Investigative Dermatology」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

汗孔角化症は、直径数mm~数cmの大きさで、赤や茶色の、円形または環状の形をした、平たく少しだけ盛り上がったできもの(皮疹)が、全身の皮膚に多発する疾患で、皮疹からは皮膚がんができやすいことが知られている。汗孔角化症には、さまざまな異なるタイプがあり、皮膚科の日常の診療において、しばしば診察する機会がある。親子や兄弟がともに発症するケースがあることから、生まれつきの遺伝的な要因があることが予想されていた。

汗孔角化症を発症する人は、メバロン酸経路の酵素をコードする複数の遺伝子(MVDやMVKなど)に、生まれつき変異を1つ持っていることがわかっていた。ヒトの細胞は遺伝子を2つずつ持っているので、遺伝子の片方が変化して働かなくても、もう片方がスペアとして働き、通常は何も問題は起きないとされる。なぜ、遺伝子の片方だけに変化を持つ人が汗孔角化症を発症するのか、その仕組みはこれまで全くわかっていなかった。

ゲノムに生じたセカンドヒットが皮疹を引き起こすと判明

今回研究グループは、子どものうちから身体の一部の皮膚に集中して症状が現れる「線状汗孔角化症」2名と、大人になってから全身の皮膚に症状が現れる「播種状表在性光線性汗孔角化症」7名の、2つのタイプの汗孔角化症患者合計9名に採血検査と皮疹の生検検査を行い、それぞれの細胞の遺伝子を調べた。その結果、9名のうち7名が、2つあるMVD遺伝子の片方に、746番目のC(シトシン)がT(チミン)へと塩基が置き換えられる変化(c.746T>C)を生まれつき持っていたことがわかった。残りの2名のうち1名はMVD遺伝子の片方に、もう1名はMVK遺伝子の片方に、比較的まれな変化を生まれつき持っていたという。

MVD遺伝子のc.746T>Cという変化は、中国の研究からも報告されており、病気の原因となる変化と考えられる。東北メディカル・メガバンクの日本人ゲノムデータベースを調べたところ、およそ日本人の400人に1人が、この変化を生まれつき持っており、汗孔角化症になる素因を持つことがわかった。

さらに、なぜ遺伝子の片方だけに変異を持つ人が汗孔角化症になるのか、その仕組みを調べた。9名の血液の細胞、症状のない皮膚の細胞、症状のある皮膚の細胞を比較した結果、症状のある皮膚の細胞でだけ、スペアとして働くはずのもう片方の遺伝子が、後天的に変化してしまっていることがわかった。つまり、ゲノムに生じた後天的な変化()によって、MVDまたはMVKのいずれかの遺伝子が2つとも働かなくなった細胞が、汗孔角化症の皮疹を作っていたことが示された。

セカンドヒットは染色体転座もしくは点変異で発生

セカンドヒットは主に2つの仕組みによって生じていた。最も多かったのは、染色体の途中からテロメア末端までが片親由来となる染色体の変化だった。この変化により、生まれつき片方の遺伝子にあった変化が、もう片方の遺伝子にもコピーされてしまい、遺伝子が2つとも働かなくなっていた。このような染色体の変化は、体細胞における染色体相同組換えにより生じると考えられているが、その誘因はまだよく分かっていない。次に多かったのは、遺伝子の塩基がCからTへと書き換えられてしまう変異で、これは主に紫外線によって引き起こされることがわかっている。

子どものうちに発症した「線状汗孔角化症」では、別々の皮疹が全て同一のセカンドヒットによる変化を持っていた。つまり、胎児期にセカンドヒットが起こった1つの細胞が、身体が作られていく過程で増殖して拡がった結果、身体の一部に線状に分布する汗孔角化症の皮疹ができたと考えられた。一方、大人になってから発症した「播種状表在性光線性汗孔角化症」では、身体中に散らばる1つ1つの皮疹は、それぞれ別々のセカンドヒットによる変化を持っていた。つまり、大人になってから、皮膚のあちこちで別々にセカンドヒットが起こり、セカンドヒットが起こったそれぞれの細胞が増殖して皮疹を作ったと考えられた。

今回の研究から、日本人の400人に1人という、これまで考えられていたよりもずっと多くの人が、汗孔角化症になる生まれつきの素因を持つことがわかった。さらに、汗孔角化症を発症させるセカンドヒットの仕組みが明らかになり、セカンドヒットが胎児期に生じるか、大人になってから生じるかによって、異なる2種類の汗孔角化症になることがわかった。「今回の成果は、汗孔角化症の予防法や治療法の開発につながると考えられ、さらに今後、セカンドヒットが起こった細胞が増殖する仕組みを解き明かし、この病気から皮膚がんが生じる仕組みを解き明かすことで、皮膚がんの治療を目指す研究を加速させることが期待される」と、研究グループは述べている。

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