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オキサリプラチン投与後の大腸がん組織内白金分布を可視化-九大ら

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2019年08月20日 PM12:00

化学療法の治療効果や臨床病理学的因子との関連性を検討

九州大学は8月9日、大型放射光施設SPring-8のX線を臨床医学に応用し、世界で初めて抗がん剤「」投与後のヒト大腸がん組織内における白金分布を蛍光X線マッピングにより可視化したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院の中村雅史教授、藤田逸人助教、木庭遼大学院生、大学院総合理工学研究院物質科学部門の西堀麻衣子准教授、高輝度光科学研究センター分光・イメージング推進室の新田清文研究員らの研究グループが、徳島大学大学院医歯薬学研究部薬学域の石田竜弘教授と共同で行ったもの。研究成果は、国際学術誌「International Journal of Cancer」で公開されている。


画像はリリースより

オキサリプラチン(L-OHP)は第三世代白金錯体系抗悪性腫瘍薬であり、大腸がん治療における主要薬剤の一つだ。進行再発大腸がんに対する、オキサリプラチンを含む3剤併用療法であるFOLFOX療法の奏効率は50%程度。オキサリプラチンの使用により好中球減少症のほか、高頻度の末梢神経障害といった副作用が現れるため、治療継続を困難にする要因にもなっている。そのため、有効性と安全性の高い化学療法を実現するためにも、治療効果を予測・診断する手法の確立が望まれている。

腫瘍組織におけるL-OHPの局所分布を明らかにすることは、薬剤の腫瘍内動態や耐性誘導メカニズムを解明する上で重要だ。そこで研究グループは、放射光蛍光X線(SR-XRF)分析に注目。高輝度かつ空間分解能が高いSR-XRF分析をヒトの腫瘍組織に応用し、抗腫瘍薬に含まれる白金および生体内必須金属の組織内分布を定量・可視化することを試みるとともに、化学療法の治療効果や臨床病理学的因子との関連性を検討した。

白金製剤の治療効果予測や治療抵抗性の機序の解明につながる可能性

同研究の分析対象は、2009~2014年に九州大学病院臨床・腫瘍外科でL-OHPを含む術前化学療法後に手術を施行した直腸がん30例(無効例9例、部分奏功例19例、完全奏功例2例)とした。SR-XRF分析に際し、直腸がんの切除標本に対して細胞転写法を用いることでスライドガラス中の微量元素や厚さに影響されることのない測定用標本を作製。SR-XRF分析は、大型放射光施設SPring-8のBL37XUにおいて14.5 keVの入射X線(ビームサイズ0.5 μm)を用いて行った。

直腸がん切除組織に対するSR-XRF分析の結果、腫瘍組織における白金の集積濃度は2.85~11.44ppm(検出下限濃度1.848 ppm)と求められた。腫瘍上皮では化学療法の治療効果に応じた変性部位で白金の集積濃度が有意に高く(p<0.01)、一方、腫瘍間質では治療効果の乏しい症例ほど集積濃度が高い(p<0.01)ことが明らかとなった。さらに、多変量解析において、間質における白金集積が組織学的治療効果に対する独立した予測因子であることが判明(OR;19.99, 95% CI;2.04–196.37, p = 0.013)。また、主成分分析では、化学療法の有効例と無効例の間には銅の分布傾向に差が生じており、銅輸送体が薬剤抵抗性に寄与していることが示唆された。

今回の研究結果は、腫瘍間質における白金の集積が直腸がんにおける治療効果と関連していることを示しており、SR-XRF分析を臨床医学と結び付けることで、白金錯体系抗腫瘍薬の治療効果予測や治療抵抗性の機序の解明が進むことが期待される、と研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

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