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保険適用から1か月、がん遺伝子パネル検査の現状と課題は?

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2019年07月08日 PM04:45

がん治療は「臓器ごと」から「変異遺伝子ごと」へ

中外製薬株式会社は7月4日、遺伝子変異解析プログラム「FoundationOne(R) CDxがんゲノムプロファイル」の発売記念セミナーを都内で開催。同プログラムは、固形がんに対する遺伝子解析プログラム(がんゲノムプロファイリング用)と、体細胞遺伝子変異解析プログラム(抗悪性腫瘍薬適応判定用)の2つの機能を備えているという特徴を持ち、6月3日に発売が開始されたもの。同セミナーでは、京都大学大学院医学研究科・腫瘍薬物治療学講座の武藤学教授が「がんゲノム医療の臨床実装と課題」と題して講演を行った。


京都大学大学院医学研究科 武藤学教授

武藤教授は、まず「がん」や「遺伝子異常」などの基本用語について、図解でわかりやすく解説したうえで、「がんに対して、なぜゲノム医療が重要か」という本題に入った。従来、がんの治療は「臓器ごと」に決まっており、その臓器ごとに同じ殺細胞性の薬剤で治療を行っていた。しかし、これからは、異なる臓器のがんでも「変異遺伝子」によって薬剤を選択できるようになった。こうした分子メカニズムに合った治療を行うことにより、従来20%程度だった治療の有効性が、50%以上になると期待できる可能性があるという。

医療実施体制の改善が望まれる

次に武藤教授は、がんゲノム医療の実施体制について解説。がん遺伝子パネル検査は現在、全国11のがんゲノム医療中核拠点病院、および156の連携病院において実施が開始されている。武藤教授は、この連携病院が北海道と東北に少なく(合わせて12)、地域格差があることを挙げ、こうした格差を解消すべきだと指摘した。

また、現在、日本でがんゲノム医療を実施するためには、「パネル検査結果の医学的解釈が可能な専門家集団を有している」ことが、厚生労働省により必要な要件のひとつとされているが、現在、(エキスパートパネル)を開催できるのは、中核拠点病院に限られており、連携病院は中核拠点病院の会議に参加するという形を取っている。しかし、専門家会議は速やかに開催されるべきものであり、武藤教授は「連携病院の自立化等により、現在指定されている11の中核拠点病院以外でも、専門家会議を含め、検査の実施から治療まで、医療としてひとつの病院で完結すべきで、この体制が整わなければゲノム医療の普及は困難」と、治療アクセスにおける課題を挙げた。

ほとんどが「保険適応外」という現状

続けて武藤教授は、京都大学が2015~2018年までに行った、自由診療でのがんゲノム検査「」で得られたデータを用いて、がんゲノム医療の実際について解説。検査を受けたさまざまながん種の患者さん251人のうち、検査が成功したのは233人(検体の状態などに依存するという)、そのうちの9割近くで、がん治療に結びつく可能性がある遺伝子変異(actionable mutation)が見つかったという。治療候補薬の6割は、日本で承認されており、2割弱は日本では未承認だが米国で承認されていた。しかし、これらの治療薬のほとんどは、がん種が異なるなどの理由で適応外だったため、実際に治療を受けたのは、わずか29人だった。このうち、先進医療や治験参加の対象となったのはわずか1%。こうした現状から武藤教授は、米国で実施されているような「single patient IND制度」を導入するなど、治療薬の適応外使用に対する対応が必要と主張した。また、患者さんが負担する多額の費用を解消するために、生命保険などの民間保険をもっと充実させるべきと意見した。

検査や診療報酬算定のタイミングも課題

武藤教授はさらに、保険適用となったがん遺伝子パネル検査の適応患者が、標準治療がない(原発不明がん、)、あるいは標準治療不応のがんであることも課題として指摘。検査結果を待つ間に全身状態が不良・悪化となり、治療に進めなかった患者も少なくない。また、現在の診療報酬算定のタイミングでは、結果の患者説明時に患者が来院しなかったり亡くなっていたりした場合、検査にかかった費用は病院の持ち出しとなる。武藤教授は、こうしたさまざまな面から、最適な検査のタイミングも今後の課題として挙げた。

日本で薬事承認・保険償還された、次世代シーケンサーを用いた遺伝子プロファイリング検査は、現在中外製薬/ロシュ社の「FoundationOne(R) CDxがんゲノムプロファイル」とシスメックスの「OncoGuide(TM) NCCオンコパネルシステム」の2つ。前者は、固形がん患者から得られた324のがん関連遺伝子の包括的なプロファイリングに基づき、治療方針の策定および医薬品の適応判定の補助に資する遺伝子変異の情報を出力する「解析プログラム」。一方後者は、テンプレートDNA調製試薬と解析プログラムから構成される「」で、固形がん患者から得られた114のがん関連遺伝子の包括的なゲノムプロファイリングに基づき、治療方針の策定補助に資する遺伝子変異の情報を出力するために使用される。それぞれ異なる特徴を持つが、保険点数はいずれも5万6,000点となっている。

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