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物を噛む動作が、異なる2つの運動制御機構に働いていることが判明-東京医歯大ら

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2019年06月20日 PM12:30

咀嚼が全身に影響を与えるメカニズムについて研究

東京医科歯科大学は6月13日、口で物を噛む動作が、異なる2つの運動制御機構に働くことを解明したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科顎顔面矯正学分野の森山啓司教授、宮本順助教、吉澤英之大学院生らの研究グループが、国立精神・神経医療研究センター神経研究所の本田学研究部長、同・脳病態統合イメージングセンターの花川隆研究部長、および群馬大学大学院医学系研究科整形外科学の設楽仁助教らのグループと共同で行ったもの。研究成果は「Scientific Reports」に掲載されている。


画像はリリースより

歯の喪失が認知症の危険因子になるという説は古くから提唱され、咀嚼によって生じる歯や口の粘膜からの感覚情報が、脳の「記憶を蓄える機能」の維持に重要な役割を果たすことが明らかとなりつつある。さらに近年、咀嚼により脳のさまざまな部位が活性化されることが、ファンクショナルMRIなどの脳機能イメージングの手法によって明らかにされ、咀嚼は脳機能に影響を与え、ひいては全身の健康維持に寄与する可能性が提唱されている。しかし、そのメカニズムについては、いまだ不明な点が多いのが現状だ。

咀嚼時に発揮される力と脳活動の関係が、歯の種類によって異なることが判明

研究グループは、咀嚼時に脳内で働く運動制御機構に着目し、食物を力強くすりつぶす「奥歯(臼歯)」と、繊細な力で物を咥えたり噛み切ったりする「前歯」を介した2つの咀嚼様式について、過去に報告された「手」で物をつかむ運動時の脳活動パターンとの比較を行いながら解析を行った。

研究では、15名の成人被験者の協力を得て、奥歯のみで噛むことが可能な装置、および、前歯のみで噛むことが可能な装置を各被験者ごとに作製した。被験者には、装置を装着した状態で「奥歯で噛む」、または「前歯で噛む」運動を指示し、咀嚼筋の筋活動を計測しながら、ファンクショナルMRIによる脳活動の解析を行い、脳の各領域における脳活動の強さと噛む力の相関関係を比較した。その結果、「奥歯で噛む」時は、咀嚼筋の筋活動の上昇に応じて小脳をはじめとした運動の命令を送る領域の脳活動が活性化し、「前歯で噛む」時に比べ、有意に強い正の相関が示された。一方、「前歯で噛む」時は、逆に咀嚼筋の筋活動の上昇に応じて帯状皮質運動野をはじめとした繊細な力のコントロールに関与する領域の脳活動が減少し、「奥歯で噛む」時に比べ有意に強い負の相関が示された。つまり、「奥歯で噛む」時は、噛む力が大きい程、脳内の力強く噛む機能がより強く働くことが示され、逆に「前歯で噛む」時は、噛む力が小さい程、脳内の繊細に力をコントロールする機能がより強く働くことが明らかとなった。今回の結果により、咀嚼時に発揮される力と脳活動の関係が、歯の種類によってそれぞれ異なることが示され、奥歯で噛む時はpower grip時と、前歯で噛む時はprecision grip時と類似した様相を示すことが明らかとなった。

今回の研究で、咀嚼時に脳内で働く2つの運動の司令塔(奥歯で力強く噛む機能、前歯で繊細な力の制御を行う機能)を詳細に観察することに成功した。これにより、物を噛む運動を行う際、脳内において、単に噛むという単一の司令系統だけでなく、異なる2つの運動制御機構が関与することが初めて実証された。研究グループは、「本研究成果は、単に咀嚼時に働く運動司令塔の仕組みを解明するだけに留まらず、咀嚼時に歯や口の粘膜などから入力される感覚情報が、脳の機能に及ぼす影響を明らかにする一助となり、さらには、咀嚼が脳を介し、全身の健康にどのような役割を果たすかを解明する新たな道を拓くものと研究グループは考察しており、矯正歯科治療をはじめとした物を噛む機能の回復を図る歯科治療の臨床的意義を、脳科学の観点から再定義することにもつながることが期待される」と、述べている。

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