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自発的心筋ブリッジ現象を利用し「マイクロ心臓」の実現に成功−理研ら

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2019年06月05日 PM12:30

微小な溝が刻まれたシート上で、ラットの心筋細胞を培養

理化学研究所は5月29日、微小な溝が刻まれたシート上でラットの心筋細胞を培養することで、溝を橋渡しする立体的な拍動組織「心筋ブリッジ」を自発的に形成させ、さらにその特性から「マイクロ心臓」ともいうべき機能性が実現できることを明らかにした。この研究は、理研生命機能科学研究センター集積バイオデバイス研究チームの田中陽チームリーダー、田中信行研究員、慶應義塾大学理工学部の山下忠紘助教、スイス連邦工科大学チューリッヒ校健康科学技術学部のヴィオラ・フォーゲル教授らの国際共同研究グループによるもの。研究成果は、オランダの科学雑誌「Sensors and Actuators B: Chemical」のオンライン版にて掲載されている。


画像はリリースより

生体を構成する細胞を生体外で育てる細胞培養は、生命機能の解明や、薬品に対する反応の解析のために、生物学や創薬の分野でよく用いられている。近年では、培養された細胞を治療の一環として患者に移植する再生医療においても基本となる技術である。一般的な細胞培養は、栄養分などが含まれた培養液が注がれた平らなシャーレ(培養皿)の底に細胞が接着した状態で行われ、細胞を小さな空間に閉じ込めて培養すると、細胞の振る舞いが変化することが知られている。

研究グループはこれまで、微小構造体を使った幹細胞の分化パターン解析法を開発。また、心臓を構成する心筋細胞を培養すると心臓と同じように自律的に拍動するため、これを動力源として利用することを提案している。

心筋細胞を微小構造体とともに培養で心筋ブリッジが形成

研究グループは今回、心筋細胞と微小構造体とを組み合わせて細胞培養するとどのような現象が起こるのか、また、その利用法についての研究を行った。

まず、細胞を小さな空間に閉じ込めて培養を行うために、フォトリソグラフィと呼ばれる半導体製造でも利用される技術を用いて、幅0.05~0.8mm、深さ0.1~0.8mmの微小溝を有するシリコーンゴム製シートを作製。この微小溝シートを培養皿の中に置き、ラットの心筋細胞(大きさ約0.02mm)を培養液の中で7日間培養した。その結果、心筋細胞が自然と寄り集まり、2本の微小柱をつなぐ心筋ブリッジが形成された。

さらに、微小柱をつなぐ心筋ブリッジの自律的な拍動と、この柔らかい微小柱が心筋ブリッジの拍動で、およそ10秒間に5回ほどの頻度で内側にたわむ様子も確認。これにより、心筋ブリッジの収縮力は、およそ15マイクロニュートンと見積もられた。このことは、心筋ブリッジが培養液に含まれる栄養素をもとに収縮力を発揮し、微小柱を変形させるという、外部に対する仕事をしたと言える。

より実際の心臓に近い状態で新毒性試験や薬効試験が可能に

次に研究グループは、2本の微小柱が内側にたわむと、その間を満たしている培養液が押し出されることから、微小柱をつなぐ心筋ブリッジの収縮を利用することで、培養液を動かすポンプのような機能が実現できると推察。そこで、培養液中に蛍光ビーズを浮遊させ、その動きを追跡・解析した。その結果、微小柱の中間付近の最も流れが大きくなると考えられる地点で、心筋ブリッジの収縮に合わせ、蛍光ビーズがおよそ2マイクロメートル移動する様子が観察された。これは、約0.01ナノリットルの培養液の移動に相当する。この結果から、心筋ブリッジの収縮と微小な構造体をうまく組み合わせることで、生物的エネルギー源を、液体の流れという機械的エネルギーに変換する機能を実現できることが判明した。

今回培養したラット心筋細胞は、さまざまな化学物質の安全性をチェックする際の心毒性試験や、新しい薬を開発する際の薬効試験に利用されている。このような場面において、心筋ブリッジという組織を用いて周りの培養液の動きを高感度カメラで捉え、拍動を定量的に評価することによって、より実際の心臓機能に近い状態で心毒性試験や薬効試験を実施できる可能性がある。さらに、iPS細胞由来の心筋細胞から心筋ブリッジを作製することで、臨床試験の負担を軽減し、心疾患の解明につながる実験プラットフォームへの展開が期待される。

研究グループは、「今後、効果的に心筋ブリッジを誘導することができれば、心臓や筋肉の発生そして機能発現を理解するための基礎研究に貢献すると期待できる」と、述べている。

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