医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > ヒト肝臓オルガノイド技術で病態の再現に成功、新薬開発への応用に期待−東京医歯大ら

ヒト肝臓オルガノイド技術で病態の再現に成功、新薬開発への応用に期待−東京医歯大ら

読了時間:約 2分58秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2019年06月04日 PM12:15

ヒト多能性幹細胞から肝臓オルガノイドを創出

東京医科歯科大学は5月31日、(iPS細胞やES細胞)から、炎症や線維化を担う複数種類の細胞を内包した複雑なヒト肝臓オルガノイド(ミニ肝臓)を創出することに成功したと発表した。この研究は、同大統合研究機構先端医歯工学創成研究部門創生医学コンソーシアムの武部貴則教授、大内梨江特任研究員らの研究グループが、埼玉大学大学院理工学研究科の吉川洋史教授らのグループと、シンシナティ小児病院と共同で行ったもの。研究成果は「Cell Metabolism」に掲載されている。


画像はリリースより

近年、日本においても、多量飲酒歴が無いにも関わらず肝臓に脂肪が蓄積してしまう非アルコール性の脂肪性肝疾患が急増している。脂肪性肝疾患の中でも、脂肪性肝炎は、単純な脂肪肝から発展して、肝臓の炎症や線維化を伴う疾患で、しばしば肝硬変や肝がんを引き起こすことから、治療介入が必須となる。日本を含め、世界的に有病率のさらなる増加が見込まれているが、脂肪性肝炎の発症メカニズムには不明な点が多く、有効性の高い治療法が存在しないことが大きな問題となっている。

これまで脂肪性肝炎に関する研究は、主にモデル動物を使って行われてきたが、ヒトの脂肪性肝炎病態を十分に再現できないために、ヒト病態の理解や治療効果の高い薬剤の開発には至っていない。また、脂肪肝から脂肪性肝炎へ発展する進行度合いには大きな個人差があることが知られており、個々の患者の病態をモデル化できるような実験系の開発が世界的な急務とされている。

脂質蓄積や炎症、線維化の病態変化をオルガノイドで再現

研究グループはこれまでに、ヒトiPS細胞から血管系が付与された肝臓オルガノイドを創出する技術を世界に先駆けて開発してきた。今回の研究では、これまでのオルガノイド技術に欠けていた炎症を誘発する免疫系細胞や線維化に関与する間質系細胞を内包した、新規の肝臓オルガノイドシステムを創出することにより、炎症や線維化といった脂肪性肝炎の病理的な特徴の再現を試みた。

炎症や線維化を再現可能なヒト肝臓オルガノイドを創出するため、ヒト多能性幹細胞から、肝臓の起源である前腸内胚葉の形成、および、マクロファージの分化や肝星細胞の分化に重要なレチノイン酸シグナルに着目。オルガノイドの形成初期にレチノイン酸を一過的に導入することで、複数系譜の細胞を同時に創出する(共分化させる)手法を確立した。各細胞種マーカーの発現解析や単一細胞トランスクリプトーム解析などを駆使した解析の結果、構築されたオルガノイドには、肝上皮細胞に加え、クッパー細胞や肝星細胞に遺伝子発現プロファイルや細胞機能が極めて類似した細胞群が含まれていることが明らかになった。このオルガノイドの培養手法により、疾患特異的iPS細胞を含む11名から樹立したヒト多能性幹細胞から同様の肝臓オルガノイドが構築できることが確認された。

次に、ヒト肝臓オルガノイドに脂肪性肝炎の特徴である、炎症や線維化を誘導するための培養条件を検討した結果、遊離脂肪酸であるオレイン酸を添加することにより、肝臓オルガノイド中に中性脂肪(トリグリセリド)が顕著に蓄積し、その後、TNF-αやIL-8などの炎症性サイトカインの発現・分泌が上昇するとともに、線維化を示す病理的変化が起こることを見出した。さらに、この線維化をよく反映する形で、肝臓オルガノイド自体の物理的な硬さも増加することが、原子間力顕微鏡を用いた解析から明らかになった。以上の結果から、ヒト肝臓オルガノイドを用いることで、脂肪性肝炎の病態に重要な脂肪蓄積、炎症反応、線維化が、試験管内で誘導できる可能性が示された。

開発中の新薬の薬効評価にも有用

最後に、このヒト肝臓オルガノイドによる脂肪性肝炎モデルが臨床病態と相関することを検証するため、先天性の脂肪性肝炎を発症するリソソーム酸性リパーゼ欠損症(Wolman病)患者由来iPS細胞から肝臓オルガノイドを構築し、その表現型を解析した。その結果、臨床病態と一致して、肝臓オルガノイド内に顕著な脂肪蓄積が観察され、炎症応答や線維化も健常者iPS細胞由来肝臓オルガノイドよりも有意に促進されることが明らかとなった。さらに、非アルコール性脂肪性肝炎に対する臨床3相試験薬であるオベチコール酸の下流標的であるFGF19でWolman病患者iPS細胞由来肝臓オルガノイドを処理すると、脂肪蓄積や線維化が抑制されることも見出した。これらの結果から、同研究で開発したヒト肝臓オルガノイドによる脂肪性肝炎モデルは、先天性の病態を模倣可能であるとともに、オベチコール酸やFGF19などの開発中の新薬の薬効評価にも有用であることが示された。

研究グループは、「オルガノイド創薬という全く新たな概念に基づき、いまだ有効な薬剤が存在しない脂肪性肝炎などの新薬開発への応用が期待できる」と、述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 住宅の種類と死亡リスクの関連を検証、低リスクは「持ち家」「公的賃貸」-千葉大ほか
  • 高齢者の介護費用、近所に生鮮食料品店があると月1,000円以上低い-千葉大
  • 膵がん血液バイオマーカー「APOA2アイソフォームズ」保険収載-日医大ほか
  • わずか「40秒」の高強度間欠的運動で、酸素消費量と大腿部の筋活動が増大-早大
  • 新規胃がん発生メカニズム解明、バナナ成分を含む治療薬開発の可能性-東大病院ほか