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がん治療用ヘルペスウイルスを用いた脳腫瘍に対する医師主導治験で高い治療効果を確認-東大

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2019年02月15日 PM12:45

がん細胞だけを効果的に狙い撃ちするがん治療用ウイルス

東京大学は2月13日、悪性脳腫瘍の一種である膠芽腫の患者を対象にした、第3世代のがん治療用ヘルペスウイルスG47Δ(ジーよんじゅうななデルタ)を用いたウイルス療法の医師主導治験において、中間解析の結果、高い治療効果を確認したと発表した。この治験は、東京大学医科学研究所附属病院脳腫瘍外科の藤堂具紀教授らの研究グループが行っているもの。治験結果の詳細は、第11回日米癌合同会議(2019年2月12日17時:ハワイ時間)において発表された。


画像はリリースより

膠芽腫は、生存期間中央値が診断から18か月、5年生存率が10%程度と、治癒が極めて困難であり、新しい治療手段の開発が待ち望まれている。今回の治験で使用したがん治療用ウイルスG47Δは、藤堂教授らが開発したもので、世界に先駆けて臨床開発を展開している。G47Δは、1型の3つのウイルス遺伝子に変異を入れ(三重変異)、がん細胞だけで増えるように改変した、世界初の第3世代がん治療用遺伝子組換えヘルペスウイルス。がん細胞をG47Δが破壊する過程で抗腫瘍免疫応答が誘導されるため、投与部位から離れたところにあるがんにも免疫を介して効果が期待できる。またG47Δは、がんの根治を阻むとされる、がん幹細胞をも効率よく破壊することがわかっている。

1年生存割合が標準治療より高く92.3%

今回の治験は、治療効果の検討を目的とした第2相臨床試験で、対象者は、初期治療後に残存または再発した膠芽腫病変を有する患者。放射線照射+化学療法()の標準治療に対して、G47Δを用いたウイルス療法を上乗せした場合に、生存期間を延長させることを有効性として検討する治験デザインとなっている。予定被験者30名のうち、治療開始から1年が経過した13名を対象として、2018年7月に中間解析を実施した。

結果、主要評価項目である1年生存割合が92.3%であり、他の複数の臨床試験結果から算出された標準治療の1年生存割合(15%)と比較して高い有効性を示した。一方、主な副作用は発熱が15名(93.8%)、嘔吐およびリンパ球数減少が各8名(50.0%)、悪心が7 名(43.8%)だった。入院期間の延長が必要となった副作用は、発熱2名(いずれもGrade 2 [軽度])(12.5%)のみで、安全性の高い治療であることが示された。この結果を受け、300 名の被験者登録を完了するまでもなく、G47Δの治療効果の有効性が確実となったため、治験実施計画に従い、独立データモニタリング委員会の勧告を経て、被験者登録を終了したという。治験実施計画により、治療を受けた被験者は、治療終了後2年間観察される。

日本初のがん治療ウイルス薬、製造販売承認申請へ

この治験の結果を基に、現在、悪性神経膠腫を適応症としたG47Δの製造販売承認申請の準備を行っており、申請時期は、3~4か月後の見込み。製造販売承認申請は第一三共株式会社が実施、G47Δの製品製造はデンカ生研株式会社が行っている。G47Δの開発は、世界に先駆けて日本で進められており、厚生労働省の先駆け審査指定制度および悪性神経膠腫を対象とした希少疾病用再生医療等製品の指定を受けている。承認されれば、日本で初めて実用化されるがん治療ウイルス薬となる見込みだ。

また、G47Δはあらゆる固形がんに有効であることが動物実験で示されており、今後さらに、可及的速やかに全ての固形がんに適応を広げることを目指すという。2013年からは、前立腺がんと嗅神経芽細胞腫をそれぞれ対象とした臨床試験を実施。2018年からは、悪性胸膜中皮腫の患者の胸腔内にG47Δを投与する臨床試験も開始している。

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