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京大発「ナノゲルデリバリー技術」でがんの免疫療法抵抗性の克服に成功—京大

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2019年02月14日 PM12:15

免疫チェックポイント阻害薬抵抗性の原因に迫る

京都大学は2月12日、がん組織で腫瘍関連マクロファージ()が不活性状態にあり抗原提示機能を発揮していないことが、がんが免疫チェックポイント阻害剤抵抗性になる原因の1つである可能性を明らかにし、さらに、独自のナノゲル型デリバリーシステムを用いて、免疫療法に抵抗性であったがんを感受性に変換できることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院工学研究科の秋吉一成教授、三重大学の村岡大輔助教(研究当時、現長崎大学准教授)、原田直純同特任講師(研究当時、現ユナイテッド・イミュニティ株式会社代表取締役)、珠玖洋同特定教授らの研究グループによるもの。研究成果は、国際学術誌「The Journal of Clinical Investigation」のオンライン版に2月12日付で掲載された。


画像はリリースより

免疫チェックポイント阻害薬は、一部のがん治療(肺がん、メラノーマ等)においては目覚ましい成果を挙げている。一方で、多くのがん種、多くの患者が同阻害薬に抵抗性を示すと言われているため、抵抗性を示すがんの解析が盛んに進められている。抵抗性のがんでは、免疫系(特にT細胞)が、がんを見つけても何らかの理由で侵入できないか、またはがんを見つけられない状態にあり、いずれにしても免疫学的に不活性であることがこれまでに分かっている。こうしたタイプのがんでは、同阻害薬でT細胞の抗がん作用を高めようとしても、治療効果に結びつかない。そこで研究グループは、同阻害薬への抵抗性の原因究明に取り組み、さらに京大発のナノゲル技術でその解決を試みることにした。

眠っていた抗原提示機能をナノゲルで呼び覚ます

まず研究グループは、ヒトの免疫チェックポイント阻害薬抵抗性がんと同様の特性を示すマウスのがん(皮下移植腫瘍)を、実験システムとして特定。このマウスのがん組織の遺伝子発現や免疫学的特性を詳しく調べたところ、がんの内部に存在する免疫細胞TAMが不活性で、抗原提示機能を発揮していないことが、がんが免疫チェックポイント阻害薬抵抗性になる要因の一つであることを突き止めた。

同研究グループは以前、京都大学発の「(40ナノメートル程度の球状のハイドロゲル)」を用いて生体中のマクロファージに選択的に物質を送達するシステムを確立した。そこで今回、人工がん抗原を搭載したナノゲルを開発し、これを用いてTAMに人工がん抗原を送達して、抗原提示機能の人為的誘発を試みた。結果、がんの内部が、炎症性サイトカインやケモカインの発現上昇を伴いながら、がん特異的CD8陽性T細胞が豊富な環境に変化し、免疫療法に抵抗性だったがんが感受性に変わることを発見した。

新たな戦略による治療成績向上に期待

TAMが、さまざまなメカニズムを通じてがんに対する免疫応答を抑制することは以前から知られていた。今回の研究は、TAMの「抗原提示機能」とがんとの関わりに世界で初めて注目したもので、同機能を適切に制御することで、TAMを味方につけるという新たな治療戦略が提起された。

今回の研究で創製された人工がん抗原搭載ナノゲルを用いた腫瘍関連マクロファージの機能制御技術により、免疫チェックポイント阻害薬等の免疫療法に抵抗性の多くのがんを感受性に変換し、治療成績を著しく向上できる可能性があると研究グループは述べている。現在、同技術の臨床応用の準備が進められている。

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