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ヒトの強膜の感触を忠実に再現した緑内障手術練習用の眼球モデルを開発-名大

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2019年01月22日 PM12:00

多くの課題が残る眼科手術シミュレータ

名古屋大学は1月18日、眼科手術シミュレータに搭載可能な、ヒトの強膜の感触を忠実に再現した緑内障手術練習用眼球モデルを開発したと発表した。この開発は、同大未来社会創造機構の新井史人教授、同大大学院工学研究科の小俣誠二特任助教の研究グループが、東京大学大学院医学系研究科の相原一教授の研究グループ、同大大学院工学系研究科の光石衛教授の研究グループ、三井化学株式会社と共同で行ったもの。同モデルは、2019年1月11日の公開シンポジウム「バイオニックヒューマノイドが拓く新産業革命」、2月1~3日の「第42回日本眼科手術学会学術総会」で展示公開するほか、3月27~30日(豪州)の「World Glaucoma Congress 2019」にて学術発表する。


画像はリリースより

医師が手術手技を早期に体得するためには、教育上、人体構造を忠実に再現した手術シミュレータが重要である。特に、若手医師が経験する機会が乏しい難治療の手技に対しては、精巧な手術シミュレータの開発が手技修得を促進し、医療行為の安全性を高めるものと期待されており、多くのシミュレータが開発されている。

研究グループは、さまざまな手術が模擬できる共通プラットフォームとして、生体計測に基づいて生体組織の特性を再現し、力や位置などを計測する機能や、動作駆動する機能を兼ね備えた精密人体モデル「バイオニックヒューマノイド(R)」を構築。その一環として、眼科手術のシミュレーションに特化した眼科手術シミュレータと眼球モデルを開発してきた。しかし、同シミュレータには、眼球モデルの模擬強膜が、ゴムの塊などの単純構造であることや、ヒト眼球と同等の1mmの中空薄肉構造を持たない、適切な薄切り・縫合がともに練習可能な模擬強膜ではない、緑内障の基本手術手技に対して実際の環境に即して訓練するための眼球モデルではないことなど、複数の課題が残されていた。

開発済みの「Bionic-EyE」に搭載可能

研究グループはこれらの課題を解決するため、厚みが1mmとなる柔軟かつ薄切りが可能な模擬強膜を中空の球状に成型すること、コラーゲン組織様の模擬的な繊維構造を形成して剥離性を模倣すること、薄切りした模擬強膜が不用意にちぎれずめくることが可能で、縫合を可能とするという要件をすべて同時に満たし、古典的な流出路再建術における強膜の薄切りと縫合が可能な、緑内障手術の練習用眼球モデルを開発。ヒトの眼の強膜組織を模倣するにあたっては、ミクロな繊維を豊富に含んだ繊維層を幾重に重ねることにより、強膜に多く含まれるコラーゲン線維の層状構造を再現することを試みた。

さらに、繊維層を層状の構造体とするために、エラストマー材料を用い、繊維材料とエラストマー材料という性質が異なる2種類の材料を層状に統合。生体を精緻に模倣した構造を設計することにより、ヒトの強膜の感触を忠実に再現した模擬強膜を開発した。

今回開発した緑内障手術練習用眼球モデルは、研究グループが開発した眼科手術シミュレータ「Bionic-EyE(TM)」(Bionic eye surgery evaluator:バイオニックアイ)のBionic-EyEに搭載可能。新たに開発した模擬強膜を用いることで、実際の強膜薄切りと同様の所作を再現することが可能となった。研究グループは「ヒトの生体組織に忠実なモデルを使用することによって、動物実験ではできなかった医師の教育や訓練が可能となり、多くの緑内障患者の治療に役立つことが期待される」と、述べている。

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