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脳梗塞慢性期に神経症状を回復させる新規脳内T細胞を判明-慶大ら

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2019年01月09日 PM01:30

慢性期における有効な治療薬がない脳梗塞

慶應義塾大学は1月7日、マウスモデルを用いた実験により、脳梗塞後の慢性期に新たに発見された免疫細胞が働き、神経症状の回復に寄与することを発見。さらに、すでにうつ病治療薬として使われている薬剤がその免疫細胞の増殖を促すことで神経症状を回復させ、新たな治療薬になる可能性を明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部微生物学・免疫学教室の吉村昭彦教授、伊藤美菜子特任助教らの研究グループによるもの。研究成果は「Nature」に掲載されている。


画像はリリースより

脳梗塞は主な死因、寝たきりの原因になっている。患者総数は100万人を超えており、今後も増加が懸念されている。しかし、現在存在する脳梗塞の治療法は発症初期のみに限られており、発症後時間が経過した慢性期における有効な新たな治療薬の開発が望まれている。研究グループは、これまで脳梗塞発症後数日間の急性期におけるマクロファージを中心とした炎症プロセスを明らかにしてきた。しかし、発症1週間目以降、炎症は収束し、病態に免疫は関与しないと考えられていた。

脳梗塞の慢性期の治療にSSRIが有効である可能性

研究グループは、脳梗塞モデルマウスを用いて、脳梗塞発症後2週目以降()の脳組織を観察したところ、獲得免疫を担うリンパ球の一種であるT細胞が多く集積していることを発見。通常、血液中のTレグがCD4陽性ヘルパーT細胞のうちの10~20%であるのに対し、脳梗塞慢性期の脳Tレグは約50%を占めており、大量に集積していると言える。また、T細胞の脳内集積を止める薬を投与すると運動機能を指標とする神経症状が悪化したことから、脳内のT細胞が神経症状の改善あるいは悪化の防止に役立っていることも判明した。さらに、この脳Tレグは他の組織に存在するTレグと異なり神経系に特徴的なセロトニン受容体を有しており、セロトニンによって増殖・活性化することも判明。脳梗塞モデルマウスにセロトニンや選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を投与した結果、脳Tレグが増加し、神経症状の改善効果が認められたという。

続いて、脳Tレグがどのようなメカニズムで神経症状の改善に寄与するのかを調査。過剰に活性化されたアストロサイトは神経毒となる物質を産生し、神経細胞を傷害したり神経伸長を阻害したりすることが知られているが、Tレグの除去でアストロサイトの活性化が亢進し、神経毒性物質の産生が増加することから、Tレグがアストロサイトの過剰な活性化を制御することで神経細胞を保護していることが推定されたという。これをもとに、分子レベルでの機序を調べたところ、脳Tレグでは組織修復や細胞の成長に重要な分子であるアンフィレグリンを強く発現していることが判明。このアンフィレグリンが、アストロサイトなどからの炎症性サイトカインの産生を抑えることで、アストロサイトの過剰な活性化を抑制し、神経細胞の損傷を抑えていることが明らかとなった。

今回の研究成果により、炎症反応が収束していると考えられていた脳梗塞の慢性期にも、免疫系が活発に作動し重要な働きをしていることが明らかとなった。現在、発症後の時間が経過した脳梗塞の治療法は再発予防やリバビリに限られているが、研究グループは「臨床の場で用いられている抗うつ薬の投与が新たな治療法として期待される」と、述べている。

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