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有機合成反応を用いた新しい手術中乳がん診断技術を開発-理研

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2018年11月30日 PM12:45

1回の検査に40分程度かかる現状の術中迅速組織診断

理化学研究所は11月28日、乳がんの手術中に摘出した組織で有機合成反応を行うことにより、乳がん細胞の有無だけでなく、がんのさまざまな種類を簡易に識別できる診断技術を開発したと発表した。この研究は、理研開拓研究本部田中生体機能合成化学研究室の田中克典主任研究員、アンバラ・プラディプタ基礎科学特別研究員、盛本浩二客員研究員、大阪大学大学院医学系研究科の多根井智紀助教、野口眞三郎教授、カザン大学のアルミラ・クルバンガリエバ准教授らの国際共同研究グループによるもの。研究成果は「Advanced Science」オンライン版に公開されている。


画像はリリースより

現在、乳がん切除手術では、乳房の膨らみを残して乳腺を部分的に切除する「乳房温存手術」が多く実施されている。その場合、できるだけがんを残さないよう、術中に端の乳腺組織(断端)での顕微鏡による診断(術中迅速組織診断)を行い、再度切除手術を行っている。この断端検査には、ヘマトキシン・エオジン染色法(HE染色法)と呼ばれる病理学的診断が利用されている。

HE染色法では、摘出した断端を凍結して切片にし、HE試薬を用いて染色した後、顕微鏡でがん細胞を検出するが、1回の検査に40分程度かかるため、この間、全身麻酔の状況の患者と執刀医は結果を待つ必要があった。一方で、検査をする病理医の数が非常に少ないことも問題となっており、より多くの患者の手術を短時間で簡便に実施できる新しい迅速術中診断技術を開発することが求められていた。

溶液に5分間浸すだけ、97%の高確率でがん細胞を判別

これまでに田中主任研究員らは、酸化ストレス条件下で、細胞で発生するアクロレインが、蛍光基を持つ「」と有機合成反応し、細胞を蛍光標識できることを明らかにしていた。今回研究グループは、このアクロレインとアジドプローブを用いることで、がん細胞だけを蛍光標識できる可能性があると考え、検証を行った。

まず、3種類の正常細胞および乳がん細胞を含む8種類のがん細胞のそれぞれの培養液に対してアジドプローブを作用させた後、顕微鏡で蛍光観察を実施。その結果、正常細胞に比べて、がん細胞で蛍光強度が著しく増大していた。それぞれの細胞が示す蛍光強度は、細胞が生産するアクロレインの量と比例することから、アクロレインががん細胞で選択的に多量発生していることがわかった。この方法で蛍光標識されたがん細胞をより詳細に調べたところ、がん細胞の中で選択的に複数の有機合成反応が進行したことが明らかになった。これにより、さまざまながん細胞でアクロレインが多量に発生していることが初めて実証された。

次に、手術中に摘出した“生”の乳がん組織にアジドプローブとアクロレインを反応させることにより、がん細胞を選択的に蛍光標識できるかを、乳がん組織とその周辺の正常組織を用いて調べた(60例)。その結果、手術中に患者から摘出した乳がんの断端をアジドプローブ溶液に5分間浸すだけで、97%の高い確率でがん細胞を判別できたという。

また、個々のがん細胞はさまざまな方式で集まり、さまざまな種類(形態)のがんを形成するが、アジドプローブを用いるとがん細胞を1細胞レベルで蛍光標識できるため、さまざまな“がんの形”の可視化が期待できる。そこで、7種類の乳がん(、非浸潤がん、増殖病変、小葉がん、乳頭腫[良性の腫瘍]、微小浸潤がん、微小非浸潤がん)を、それぞれアジドプローブ溶液に5分間浸した後、顕微鏡で観察したところ、さまざまな形態を確認できることがわかった。この結果は、HE染色法で得られた画像とほぼ同じであり、アジドプローブ染色法を用いることで従来のHE染色法で得られた画像と同じ画像を5分で得ることが可能になったとしている。

研究グループは「今後、乳がん診断検査の臨床研究を経て、多くの乳がん手術現場で本技術が活用されると期待できる。さらに、本技術と人工知能(AI)の画像診断技術との併用により、乳がんの切除手術の効率化がいっそう進むことも期待できる」と述べている。

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