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医療機器の安全対策における課題と単回使用機器の可能性-ボストン・サイエンティフィックがセミナー開催

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2017年12月01日 PM03:00

単回使用医療機器の再製造に関する新制度できるも、対象製品は限定的

単回使用に限られる医療機器を再利用する、いわゆる「使い回し」が問題となるなか、2017年7月、厚生労働省は単回使用の医療機器の再製造に関する制度を新設した。こうした流れを背景に、日本初となる単回使用の軟性尿管腎盂鏡「(TM)」を製造販売するボストン・サイエンティフィック ジャパン株式会社は11月22日、メディアセミナーを開催。埼玉医科大学泌尿器科教授の矢内原仁氏が、「泌尿器科領域における医療機器の安全対策」をテーマに講演した。


埼玉医科大学泌尿器科教授 矢内原仁氏

(SUD)の再使用は以前から行われていた、と矢内原氏。その際、問題となるのが、消毒・滅菌などの再処理がしっかり行われているかという安全性に関する点だ。新設された厚労省の制度は、企業が病院から医療機器を回収し、分解して洗浄、部品交換や再組立て、滅菌などの処理を行うことで、SUDの再製造を認める制度で、再製造製品の安全性の担保と医療費削減の両立を目指すものだ。しかし、対象となる機器は、欧米で再製造の実績があるなどの制限があり、脳神経系に使用された医療機器などは除外される。また、再製造されたSUDは別の品目として製造販売承認を得る必要があるなど、「企業側のハードルはかなり高い」と矢内原氏。再処理コストも増大が見込まれることから、対象となるのはコストに見合う製品に限られるとの見通しを示した。

医療機器の再処理には問題山積

医療機器の再処理に関しては、学会や厚労省の研究班から手引きやガイド、指針などが多数示されているものの、そこには問題点が潜んでいると矢内原氏は指摘する。すなわち、医療機器の再処理に関する教育が十分でないこと、手引きやガイド遵守の度合いが検証されていないこと、さらには、手引きやガイドそのものの妥当性に関して科学的な検証がなされておらず、定められた手順を遵守すれば感染を防げるのかが明らかでないことも問題だという。制度の整備が日本よりも進んでいる米国においても、再処理された医療機器に端を発した集団感染の報告が後を絶たない。矢内原氏によると、医療機器の再処理をめぐる問題は、消毒・滅菌方法の選択や限界という再処理自体の問題と、消毒と滅菌の使い分けや再処理のルール策定・スタッフ教育といった、再処理を行う組織に内在する問題の2つの面に分けられるという。

例として、矢内原氏は自身の専門領域である泌尿器科で使用する泌尿器内視鏡を挙げて解説した。泌尿器内視鏡は、細径で壊れやすく、扱いが難しい。洗浄ひとつとっても、用手洗浄では洗浄の質を保障できず、各スタッフがしっかり洗浄できているのか判断できない。器械洗浄可能な機器であればある程度の洗浄の質を保障できるが、軟性の尿管鏡は器械洗浄できないものが多く、「メーカーは性能向上に傾注するあまり、再処理されて使用される実態を考慮していない」(矢内原氏)。滅菌はといえば、FDAが認可している滅菌の質を保障できる軟性の尿管鏡の滅菌方法は、「安価だが時間がかかり、尿管鏡の数を多くそろえる必要がある方法」と「短時間で滅菌できるが高価なうえに、機器への負担が大きい方法」の2択しかないという実情。こうした背景から、本来滅菌を行うべき機器を、高水準消毒のみで使用している施設も多いのではないかと矢内原氏はいう。「内視鏡の安全対策では、再処理のコストとのバランスがとれていなければ、手順は遵守されない。許容されるレベルがどこにあるのかを検討し、遵守できるガイドラインを策定する必要がある」(矢内原氏)

単回使用と再利用、使い分けていく時代

これらの再処理をめぐる問題を考えるとき、再処理の必要のない単回使用の機器を使うというのもひとつの選択肢である。使い捨ての医療機器が十分に機能的であれば、再処理方法の策定や人材育成の必要もなく、再処理方法のチェック体制の確立も要らなくなる。再処理に関わるコストや、機器の修理費用、再処理方法が破綻した場合の処理に関する費用も考えなくてよい。実際に、注射針やマスクなど、かつては再利用が当たり前と思われていた製品が、使い捨てに置き換えられていった例も多い。「今後は、内視鏡などの医療機器も、単回使用と再利用を使い分ける時代になっていくのではないか」と矢内原氏は述べた。

ボストン・サイエンティフィック ジャパンが7月に発売したLithoVueシステムは、腎臓や尿管、膀胱での結石などを診断・治療するためのビデオ軟性尿管腎盂鏡。単回使用製品であり、患者ごとに常に新品を使用する。再利用可能な軟性尿管腎盂鏡との違いは、経年変化などで機器の性能が低下することがない点だ。同システムを採用することで、予測不能な故障やメンテナンス、洗浄・滅菌の時間を省き、再処理によって起こる予期できない手術の遅れも回避が可能となる。さらに、腎盂鏡自体もハンドル部分を軽量化し、内視鏡操作による医師の疲労軽減にも寄与。より効果的な治療への貢献が期待できるという。

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