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上皮性卵巣がんの新規治療標的遺伝子を多数発見-阪大

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2017年09月25日 PM02:30

shRNA、CRISPR/Casライブラリーを用いて

大阪大学は9月19日、マウス生体内において、shRNA、CRISPR/Casライブラリーを用いた網羅的遺伝子スクリーニングを行い、多数の上皮性卵巣がん新規治療標的遺伝子を発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科産科学婦人科学の小玉美智子助教、消化器内科学の小玉尚宏助教、産科学婦人科学の木村正教授、およびテキサス大学のナンシー・ジェンキンス教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Proceedings of the National Academy of Science of the United States ofAmerica(PNAS)」に8月15日付けで掲載されている。


画像はリリースより

研究グループは、異なる2種類の遺伝子ライブラリーをそれぞれヒト卵巣がん細胞に導入し、それらの細胞を免疫不全マウスに投与して、生体内にできた腫瘍での数千から数万の遺伝子の働きを網羅的に調査した。1つ目の遺伝子ライブラリーとして創薬可能遺伝子shRNAライブラリーを用い、約7500の遺伝子を個々に発現抑制。もう1つは、全ゲノムCRISPR/Casライブラリーを用いて、ヒトに存在する約2万2,000の遺伝子全てを個々に破壊したという。これにより、遺伝子の抑制や破壊により著しく腫瘍形成阻害作用が生じる多数の新規治療標的遺伝子を同定したとしている。

イベルメクチンにKPNB1依存性の抗腫瘍効果

研究グループは、とくに強い阻害作用を有したKPNB1(Karyopherin beta-1またはimportin beta-1)に着目。KPNB1阻害がアポトーシス誘導や細胞周期の停止を誘導することを明らかにした。また、上皮性卵巣がん患者由来の遺伝子発現データを解析すると、KPNB1発現が高い症例では生命予後が悪く、KPNB1は非常に有望な新規治療標的と考えられることがわかったという。さらに、既に長らく臨床で用いられている抗寄生虫薬「」が、KPNB1依存性の抗腫瘍効果を有していることを発見し、現在の標準治療薬剤の1つであるパクリタキセルとの併用が上皮性卵巣がんの新規治療戦略となる可能性を証明した。

上皮性卵巣がんは進行した状態で発見されることが多く、現在の標準治療である手術、およびパクリタキセル・カルボプラチン併用療法によっても、依然として5年生存率が50%を切る予後不良のがんであり、新規治療薬が待ち望まれている。今回の研究成果により、卵巣がんに対して、イベルメクチンのドラッグ・リポジショニングや同定された新たな治療標的遺伝子に対する創薬化が加速し、予後不良な卵巣がん患者の生命予後改善に寄与することが期待される、と研究グループは述べている。

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