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ダニ媒介性脳炎ウイルスによる中枢神経症状の発症メカニズムを発見-北大

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2017年08月31日 PM02:30

極めて重篤な脳炎を特徴とするウイルス性感染症

北海道大学は8月29日、ダニ媒介性脳炎ウイルス()の新たな発症メカニズムを発見したと発表した。この研究は、同大大学院獣医学研究院の好井健太朗准教授らによるもの。研究成果は、「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」電子版に掲載されている。


画像はリリースより

ダニ媒介性脳炎は、マダニが媒介する極めて重篤な脳炎を特徴とするウイルス性感染症。ユーラシア大陸中北部の広域にわたって発生がみられ、日本国内でも2016年以降に2名の死亡例が報告されている(2017年7月時点)。TBEVは,マダニによる吸血によりヒトへと感染し、表皮と末梢臓器で一時的に増殖するが、脳内の神経細胞へのウイルス感染がどのようにして脳内の神経細胞への知覚障害等の中枢神経症状を引き起こすのか、そのメカニズムは未解明だった。

これまでの研究で、TBEVの遺伝子RNAは、神経細胞の樹状突起内に輸送され、局所的にウイルスが増殖することで神経細胞が変性し、重篤な神経症状を引き起こしている可能性が示されてきた。さらに近年の研究によって、神経細胞は特定のRNAを樹状突起へと輸送する「神経顆粒」と呼ばれる機構を持ち、これが神経細胞の機能を制御していることが明らかになっていた。今回の研究では、この神経顆粒に着目。ウイルス遺伝子RNAの樹状突起内輸送機構と神経症状発生のメカニズムの解明を試みたという。

ウイルス遺伝子RNAが神経細胞内RNA輸送機構を利用

研究グループは、神経細胞モデルを用いてウイルス遺伝子RNAを細胞内で発現させ、ウイルス遺伝子RNAの輸送に必要なウイルス遺伝子配列を特定。次に、樹状突起内の輸送機能を欠損したウイルスを作製し、マウスモデルにおける神経病原性を解析した。さらにウイルス遺伝子RNAと神経顆粒の構成タンパクの相互作用の解析や、神経顆粒による神経細胞のRNA輸送へのウイルス感染の影響を解析した。

その結果、神経細胞の樹状突起内のTBEVのウイルス遺伝子RNAの輸送には、ウイルスタンパクの設計情報を持たない 「5’非翻訳領域」中の特定の遺伝子RNA配列が重要であることが同定された。この領域に変異を導入し、樹状突起内のウイルス遺伝子RNA輸送機能を欠損させたウイルスを製作し、マウスモデルで病原性を評価したところ、中枢神経症状の改善を確認。ウイルス遺伝子RNAは神経顆粒の構成タンパクの1つであるFMRPと相互作用しており、神経顆粒が本来輸送する神経細胞のRNA輸送を妨げているという結果が観察されたという。

このようなウイルスによる神経細胞内RNA輸送機構の利用はこれまでに報告がなく、ウイルス性脳炎だけでなく、RNA輸送が関与する神経変性疾患の病態解明や治療法開発にもつながる可能性があるという。今後について、研究グループは、「ウイルスを利用して樹状突起に任意のRNAを輸送する遺伝子ベクターを開発するなど、神経変性疾患の治療につながることが期待される」と述べている。

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