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下垂体腫瘍が引き起こす、外見変化を伴う難治性疾患-クッシング病と先端巨大症

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2017年02月20日 PM02:00

2月28日の「世界希少疾患・難治性疾患の日」を前に

ノバルティスファーマ株式会社は、「希少・難治性疾患患者さんが抱える課題と、疾患へのより良い理解を目指して」と題した3回シリーズのメディアセミナーを開催。その第2回が2月14日に都内で行われ、神戸大学大学院 医学研究科 糖尿病・内分泌内科の高橋裕准教授がクッシング病と先端巨大症について講演した。


神戸大学大学院 医学研究科
糖尿病・内分泌内科 准教授 高橋裕氏

下垂体腺腫のひとつ、クッシング病は、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の過剰分泌により副腎からのコルチゾール過剰が引き起こされて、特有の徴候や合併症、生命予後の悪化をきたす疾患だ。原因のほとんどはACTH産生下垂体腺腫によるものとされる。中年女性に好発し、日本における患者数は推計600人と稀な疾患。新たに診断される患者は年間40~50例とする報告があるが、未診断例も多いと考えられることから、実際の患者数はこの推計を上回る可能性があるという。

下垂体腺腫は、脳下垂体の一部が腫瘍化したもので、多くは転移などのリスクがない良性腫瘍だが、正常な下垂体組織が障害されることで、下垂体ホルモンの調節がうまくいかなくなる下垂体機能低下症を呈することがある。脳内の狭小部位に発生するため、腫瘍の増大により視交叉や海綿静脈洞が圧迫されて、頭痛や視力・視野障害、眼球運動障害などの局所症状が起こる。下垂体腺腫の多くはサイズが小さく、その3~4割はMRI検査では見つからないケースで、治療も困難。手術で腫瘍を同定できない場合や全摘出できない場合もあるうえ、手術手技そのものも難易度が高く熟練が必要であるため、寛解が難しく再発率も比較的高いという。

クッシング病において問題となるのが合併症だ。コルチゾールの慢性過剰により、糖尿病、高血圧、動脈硬化、骨粗しょう症、血栓、精神症状、免疫力低下、易感染性といった多様な合併症を引き起こし、患者のQOLを低下させる。治療法がない時代には5年生存率が50%未満と、悪性腫瘍に匹敵する予後不良の疾患だった。典型例では、満月様顔貌やにきび、腹部に伸展性赤色皮膚線条などがみられ、外見から判断できるという。診断には、ACTHとコルチゾール過剰の確認、コルチゾールの異常反応の確認、下垂体からのACTH異常分泌を確認し、肺がんなど異所性ACTH産生腫瘍との鑑別を行う。治療では、手術が第一選択となる。また、過剰なコルチゾールを抑制する薬物療法もあるものの、状況に応じた調整ができず、コルチゾールの適切なコントロールは難しいことから、深刻な合併症を引き起こし予後が悪化する場合もある。「診断がついても、治療には熟練した技術が必要になる。患者の予後改善を考えるうえでは、医師偏在の解消も課題だ」(高橋氏)

患者のQOL低下が著しい先端巨大症、医療者は患者の気持ちに寄り添う治療を

同じく下垂体の腫瘍が原因となり、成長ホルモンが過剰分泌されて起こるのが先端巨大症だ。好発年齢は40~50歳で男女差はなく、有病率は4~15人/10万人。日本では3,000人ほどの患者がいると推計される稀な疾患だが、軽症患者は見落とされている可能性もあり、「糖尿病と診断されている患者のなかに、先端巨大症患者が紛れている可能性もある」と高橋氏。実際の患者数はその数倍以上という推計もあるという。

先端巨大症では手足の容積が増大し、下顎が張り出してくるなど特有の顔貌変化が起こるほか、睡眠時無呼吸症候群やインスリン様成長因子(IGF-1)の産生亢進による耐糖能異常などを合併するため、QOLの低下や生命予後悪化が問題となる。コントロール不良の先端巨大症患者は寿命が10~20年短くなるという報告もあり、IGF-1をいかに正常化するかが重要となるという。治療では手術が第一選択だが、先端巨大症は腫瘍が大きくなってから発見される例も多く、手術による治癒率は50~70%前後という。手術不能例には薬物療法を行うが、使用する薬剤はそれぞれ効果に限界があるため、症状や病態を考慮した薬剤選択が必要となる。「安価な経口薬のドパミンアゴニストでは十分な効果が得られない例も多く、それ以外は高額な注射薬。指定難病で医療費助成があるとはいえ、患者の経済的負担が大きいことも問題だ」(高橋氏)

さらに、高橋氏は先端巨大症によるQOLの低下の深刻さを強調した。高橋氏らが日本語版を開発した、先端巨大症患者のQOLを評価する質問票「AcroQOL」を用いた評価では、寛解状態であっても外見に関する指標でQOLの低下が著しいという結果が得られている。セミナーには、先端巨大症患者で「下垂体患者の会」メンバーの山中登志子さんも登壇。10代で発症した自身の体験を語り、写真に写った自分の大きな顔を見るのが辛く写真がトラウマになっていたこと、男性の目を避けたくて女子大に進学したことなど、患者がおかれている苦しい状況について説明した。山中さんは3度目の手術の際によい主治医に巡り合うことができ、治療に前向きになれたといい、技術や経験ももちろんだが、患者の気持ちに寄り添ってくれるかどうかといった医師の人柄も重要と述べた。

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