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脳動脈瘤の発生に関わる血管の炎症反応の仕組みを解明-京大

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2017年02月10日 AM11:45

外科的治療の対象とならない未破裂の脳動脈瘤に対する治療法開発へ

京都大学は2月8日、脳動脈瘤の発生やそれが徐々に大きくなる原因のひとつである脳の血管の炎症反応がどのように制御されているのかについて、その仕組みの一端を明らかにし、(白血球の一種)に存在するEP2という受容体が、炎症を起こすさまざまな物質の反応を増強していることを発見したと発表した。この研究は、同大学医学研究科の青木友浩特定准教授、成宮周同特任教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Science Signaling」に2月8日付けで掲載されている。


画像はリリースより

脳動脈瘤は、脳血管分岐部に形成される嚢状の病変で、死亡率・後遺症率ともに極めて高いくも膜下出血の原因疾患。多くの脳動脈瘤は脳ドックなどで未破裂の状態で発見されるが、現在、脳動脈瘤の治療法は外科的治療法しか存在しないため、外科治療の対象とならない多くの症例が未治療だ。破裂した場合の重篤性を考えると、未破裂脳動脈瘤に対する有効な薬物治療法の開発は社会的急務といえる。

これまでの研究から、脳動脈瘤の発生や進行・悪化には、血流により脳血管壁にストレスがかかることで引き起こされる炎症反応が重要であることがわかっており、また、このような炎症反応に転写因子であるNF-κBの活性化が重要であること、炎症反応が生理活性脂質の一種であるProstaglandin E2()によりその受容体のひとつであるEP2を介して制御されることも発見されている。しかし、-EP2経路が脳血管壁のどの細胞種で機能し脳動脈瘤の病態を制御するのか、EP2経路が病変内でどのようにNF-κBの活性化による炎症反応を制御するのか、またEP2経路が脳動脈瘤の創薬標的となり得るのかは不明だった。

がんやアルツハイマー病などへの応用も

同研究グループは、まずヒトの脳動脈瘤標本を用いて、PGE2を産生する酵素であるCOX-2とEP2の発現が多い病変ほど、脳動脈瘤内へのマクロファージ浸潤数が多いことを発見。さらに、NF-κBの活性化を蛍光たんぱく質の発現で追跡できるマウスを作製し、NF-κB活性化が脳動脈瘤壁でどのように変化するのかを検討したところ、病態形成初期には血管内皮細胞と浸潤マクロファージでNF-κBが活性化していることがわかった。この活性化は脳動脈瘤の進行に伴い脳血管壁全体へ波及していたという。

さらに、血管内皮細胞とマクロファージそれぞれの細胞だけでNF-κBの活性化を抑制できるマウスを作製し、脳動脈瘤誘発処置を行ったところ、マクロファージでNF-κB活性化を抑制した場合でのみ脳動脈瘤形成が抑制され、また、NF-κBを活性化させる因子であるEP2の発現をマクロファージのみで欠損させても同様に脳動脈瘤形成が抑制されたという。これらマクロファージだけでEP2を欠損させる、もしくはNF-κB活性化を抑制することで、脳動脈瘤で起こっている脳血管壁全体での炎症反応や病変内へのマクロファージの浸潤数が抑制された。これらの結果から、マクロファージ内に存在するPGE2--NF-κB経路が脳血管壁での炎症反応を制御することで脳動脈瘤が発症・進行することが明らかとなった。

EP2は病気の起こる場所で発現が誘導され炎症を起こす他の因子の作用を増強することから、EP2阻害薬は必要な炎症反応を保った状態で病気を起こす過度の炎症反応のみを遮断できる可能性があるという。EP2は脳動脈瘤以外でも、がんやアルツハイマー病などでも病態制御を行うことが報告されていることから、EP2阻害薬の開発により、それらの疾患に対する新規治療薬としての応用や、副作用の少ない治療薬候補としても期待できる。同研究グループは今後、他疾患への応用も念頭に置きつつ、脳動脈瘤治療薬としてのEP2阻害薬の開発を進める予定としている。

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