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世界初、ES細胞からヒト腸管の機能を有する「ミニ腸」の作製に成功-成育センター

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2017年01月17日 PM12:30

蠕動様運動をし、吸収能や分泌能を備えたミニ腸を開発

国立成育医療研究センターは1月12日、試験管内でヒトES細胞から、蠕動様運動、吸収や分泌能などのヒト腸管の機能を有する立体腸管の創成に世界で初めて成功したと発表した。この研究は同センター再生医療センター阿久津英憲生殖医療研究部長、梅澤明弘センター長のグループと臓器移植センター笠原群生センター長を中心とした研究グループによるもの。研究成果は「JCI insight」に同日付けで掲載されている。


画像はリリースより

ヒトES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞を用いた再生医療が注目を集めているが、近年では複雑な組織構造をもつ立体構造体を試験管内で形成する研究も進められている。しかし、複雑な臓器の作製には臓器を構成するさまざまな細胞種が存在して各組織を構成するとともに、それらが特定の機能を発揮しなければならないという大きな課題がある。特にヒト臓器の中でも腸管は複雑な構造と機能を有しているため、試験管内での再現は極めて困難といわれていた。

今回同研究グループは、マイクロファブリケーション(微細加工)技術を培養底面の基材へ応用。試験管内の底面に対して細胞接着をパターン化した培養空間を開発し、そこでヒトES細胞やiPS細胞が自己組織化能を発揮し立体組織化することを見出した。ヒトES細胞はパターン化した接着面で増殖・分化し、内部に空間をもった立体構造体がつくられて、接着面から離れ浮遊する。この経時的過程で腸管発生の遺伝子発現解析を行ったところ、立体構造体形成とともに、生体の腸管発生を模倣するように発生段階が進んでいた。浮遊立体構造体を固定標本化し、組織構造解析、腸管特異的タンパク質発現解析や電子顕微鏡解析を行ったところ、生体の腸管に近い組織形態をもつことがわかったという。

腸の難病に関する研究や画期的治療法開発への応用に期待

また、作製された立体構造体が、自律的に蠕動様の運動を行い、ヒトで下痢や便秘の際に使用する薬剤に対して生体の腸同様に反応することを確認。吸収分泌についても生体腸のような機能を示しており、複雑な構造、機能を有しているヒト腸管をそのまま小さくしたような立体臓器「ミニ腸」を試験管内で創り出すことに世界で初めて成功した。このミニ腸は、試験管内で長期に生存し、薬剤試験にも繰り返し使用することができるという。

Hirschsprung病類縁疾患など先天性の腸の疾患やCrohn病、潰瘍性大腸炎といった炎症性腸疾患など、出生後から成育期にかけて発症する腸の病気では治療に難渋する疾患が多いが、今回のミニ腸は未分化細胞から生体に近似した腸が創り出せるため、腸の難病の研究や創薬開発へ応用可能。また、ミニ腸は創薬開発において腸での吸収・代謝の評価や、生体腸管に対する薬剤の副作用の評価にも応用が期待される。今回の立体臓器ミニ腸の成果は、多能性幹細胞から複雑な生体組織を試験管内で作製し組織移植する「次々世代の再生医療」へつながることが期待されると、同研究グループは述べている。

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