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疼痛治療のトップランナーが語る、「慢性痛治療における脊髄刺激療法の可能性」とは

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2016年10月13日 AM10:00

慢性痛患者のペインクリニック受診はわずか0.8%

慢性痛に対する脊髄刺激療法で、2016年3月にMRI対応の新たな非充電式脊髄刺激装置「Proclaim(TM) Elite MRI」および同トライアルシステムの製造販売承認を取得した、セント・ジュード・メディカル株式会社は9月28日、都内でセミナーを開催。NTT東日本関東病院・ペインクリニック科の安部洋一郎部長が慢性痛の治療戦略をテーマに講演を行った。


NTT東日本関東病院 ペインクリニック科の安部洋一郎部長(左)と
セント・ジュード・メディカル株式会社メディカル・アフェアーズ・
バイスプレジデント アレン・バートン氏(右)

慢性痛とは、治療に要すると期待された期間を超えて持続する痛みあるいは、進行性の非がん性疾患に関する痛みであり、痛みの持続期間が3か月以上であることと定義される。2004年にインターネットで実施された疫学調査によると、日本における18歳以上の男女の慢性痛保有率は13.4%。うち2.0%にあたる約220万人が重度の慢性痛患者と推計されるが、通院治療中なのは全慢性痛患者の34.5%にすぎない。44.5%は通院を止め、受診経験がない患者も21.0%いた。患者の通院先として多かったのは一般整形外科(45.0%)や一般内科(21.3%)で、ペインクリニックはわずか0.8%であった。

調査結果は慢性痛患者の多くは痛みがあっても我慢しているか、通院していても疼痛専門医の治療を受けているケースはまれであることを示しており、講演のなかで安部部長はこうした事態を憂慮。痛みを長期間放置すると、痛みの刺激による交感神経の作用で血流が悪化して代謝異常が起こり、その結果、発痛物質が滞留して痛みが増幅し、交感神経がさらに刺激されるという、「痛みの悪循環」が起こることを指摘し、疼痛専門医による早期介入でこの悪循環を断ち切ることの重要性を説いた。

複雑なメカニズムゆえ治療困難な神経障害性疼痛

痛みは神経系統の損傷の有無で、、心因性疼痛の3つに分けられる。慢性痛の病態ではこれらが複雑に混在していることが一般的であり、治療に際しては患者の痛みを構成する侵害受容性疼痛、、心因性疼痛の割合を見極め、それぞれに適した治療法を組み合わせて提供する「集学的治療」が基本とされている。

安部部長はこのうち神経障害性疼痛が最も複雑なメカニズムを持つことなどから、治療が困難であることを説明。臨床的特徴としては電撃痛や刺すような痛み、灼けるような痛みなどがあり、知覚過敏や衣擦れのような弱い刺激でも痛みを感じるアロディニアと呼ばれる症状が見られることもあるという。

主な原因疾患は帯状疱疹後神経痛、糖尿病性神経障害に伴う痛み・しびれ、坐骨神経痛、脳卒中後疼痛など。薬物治療では三環系抗うつ薬やCaチャネルα2δリガンドが第一選択薬となるが、いずれもめまい、ふらつきなどの副作用がある。そのため安部部長は、「薬物治療で痛みがなくなっても副作用で寝てばかりいるのでは意味がない。痛みの軽減だけでなく、患者が体を動かしやすい状態にし、体を動かして治療に参加することの重要性を患者自身にも認識させることが、ペインクリニックの役割」と述べ、日常生活の改善が治療目標であることを示した。

副作用の発現を避けるため、神経障害性疼痛の治療では一般的に薬物治療と神経ブロック療法を併用する。併用により薬物使用量の低減が期待できるが、疼痛緩和効果が不十分な場合は、追加的に神経刺激療法や理学療法、心理療法などを実施することになる。

慢性痛治療の“切り札”となる脊髄刺激療法


「Proclaim(TM) Elite MRI」
(画像提供:セント・ジュード・メディカル株式会社)

安部部長によると、NTT東日本関東病院・ペインクリック科が「ほかの治療で効果がなかったときの切り札」として力を注いでいるのが、(SCS)だ。同科では患者に対してまず、局所麻酔による神経ブロック療法を行い、脊髄、交感神経、神経根由来の痛みに対してはさらに高周波熱凝固法を、椎体、椎間関節、椎間板由来の痛みにはラジオ波メスをそれぞれ実施。それでも痛みが残った患者にSCSを実施している。

SCSとは、脊髄の硬膜外腔にリードを、臀部または腹部に小型の刺激装置を植え込み、リードから脊髄に微弱な電流を流すことにより痛みの信号を脳に伝わりにくくする治療法。植込みはリードのみを体内に留置して効果の有無を確認するトライアルと、リードを刺激装置に接続する本植込みの2段階で実施される。同科では2011~2015年の5年間で103症例のリードトライアルが行われ、うち50症例が本植込みに進んでいる。

本植込み後は患者自身がコントローラを使って刺激を調整する。従来の脊髄刺激装置のコントローラは手元操作用のリモコンとパッドがケーブルでつながり、刺激調整の際、患者は片方の手でパッドを刺激装置の植込み位置に当て、もう一方の手でリモコン操作するというように、両手を使う必要があった。これに対してセント・ジュード・メディカル社が新規開発した「Proclaim(TM) Elite MRI」は、患者用コントローラにApple社のiPod touchを採用。Bluetoothによって体内の刺激装置とワイヤレスで通信するため、片手での操作が可能になった。


(画像提供:セント・ジュード・メディカル株式会社)

安部部長はこの点を「上肢痛で片手が不自由な患者にも操作がしやすくなった」と評価。さらに(1)非充電式のため充電のし忘れや充電に伴う負担が減る(2)頭部および四肢のみという条件つきながら従来品では不可能だったMRI撮影が可能(3)患者用コントローラが日本語表記のため高齢者でも操作しやすい―ことを患者のメリットとしてあげた。

セミナーには医師で、セント・ジュード・メディカル社のメディカル・アフェアーズ・バイスプレジデント、ニューロモジュレーション部門メディカルディレクターのアレン・バートン氏も登壇し、新しい脊髄刺激装置と同時に承認されたトライアルシステムなどを紹介。体内に植え込んだリードと体外式刺激装置を結ぶケーブルがなくなったことで、ケーブルの引っかかりを気にするストレスが減り、トライアル中の活動範囲が広がる可能性を示し、日本におけるSCSのさらなる普及に期待を寄せた。

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