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複数のさい帯血ユニットを組み合わせて利用する新規移植法の開発へ-東大医科研

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2016年09月08日 PM03:00

1つのユニットだけでは造血細胞数が不足、3つ以上では副反応が問題に

東京大学医科学研究所は8月9日、複数のさい帯血ユニットを利用した新規移植法の開発へと結びつく、画期的な成果を報告した。この研究は、同研究所の石田隆客員研究員(当時:北里大学大学院医療系研究科・博士課程在籍、現:同大学医学部血液内科学助教)、高橋聡准教授、大津真准教授らが、同研究所の中内啓光教授、北里大学の東原正明教授らと共同で行ったもの。同研究成果は「Journal of Experimental Medicine」オンライン版に8月8日付けで公開されている。


画像はリリースより

白血病等の治療に用いられるさい帯血移植においては、1つのユニットに含まれる細胞数が不足し、生着が遅れることが臨床上の問題となっている。2つのユニットの移植では細胞数の不足を補うには十分ではなく、また先行する臨床研究において3つ以上の混合ではむしろ副反応が前面に出ることが示されていた。

遺伝背景の異なる造血幹/前駆細胞でも、協調して早期の造血回復に寄与

今回の研究は、主にさい帯血のモデルとしてマウスの骨髄細胞を用いて行われた。さまざまな混合移植実験を繰り返した結果、「他人」マウスの細胞であっても造血幹/前駆細胞として複数種を混ぜて移植することで、強い放射線照射により死亡するレシピエントマウスを救命できること、それらのマウスにおいては混合細胞が早期に好中球、血小板となって血液中に現れること、1つのユニットにTリンパ球を含ませると最終的にそのユニット由来の血液細胞が単独でレシピエントの造血を維持することの3点が明らかになったという。

これらの結果は、互いに遺伝背景の異なる複数のさい帯血であっても、造血幹/前駆細胞の形であわせて移植することで、混合物として好中球、血小板の回復に寄与しうる可能性を支持するものだという。この知見を臨床に応用するため、同研究チームは日本赤十字社・関東甲信越さい帯血バンクの協力により、凍結さい帯血から造血幹/前駆細胞の混合ユニットを移植可能な形で作製する技術開発を試行。凍結さい帯血からの細胞回収は従来、死細胞を多く生むことが避けられないと認識されていたが、Miltenyi Biotech 社の CliniMACS Prodigyを用いることでその問題を解決し、最大9ユニットの凍結さい帯血を同時処理する技術を確立したとしている。この方法で得られた造血幹/前駆細胞は、免疫不全マウスへの移植によって早期造血への貢献が示され、臨床応用されるに十分な造血能力を有することが証明されたという。

この研究成果を活用し、新規移植法が確立されることで、現行のさい帯血移植が抱える問題を解決し、移植の適応拡大と、より安全な移植医療の実現に貢献することが期待される。また、さい帯血バンクに保存されているユニットのうち、移植に足る細胞数を含まず従来使用されてこなかった多数のユニット(一定期間の後に移植不可となることからデッドストックと呼ばれる)についても、造血幹/前駆細胞の形で混合することで移植補助製剤としての有効活用が可能となり、医療経済効果も期待できるとしている。

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