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細胞老化を制御する遺伝子の同定に成功-神戸大

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2016年09月07日 PM04:30

アポトーシス細胞と老化細胞を誘導、遺伝子の発現レベルを比較

神戸大学は9月5日、肝がん細胞を濃度の異なる抗がん剤で処理することにより、アポトーシス細胞と老化細胞を誘導し、遺伝子の発現レベルを比較することで、細胞老化を制御する遺伝子の同定に成功したと発表した。この研究は、同大学バイオシグナル総合研究センターの鎌田真司教授、長野太輝研究員らと、国立がん研究センター研究所難治進行がん研究分野の江成政人ユニット長の研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」オンラインに8月22日付けで掲載されている。


画像はリリースより

放射線や抗がん剤によるがん治療は、がん細胞に計画的細胞死の1つであるアポトーシスを起こすことによってがん組織を消滅させることを目的としている。しかし、がん治療自体がストレス因子や変異誘導因子となってがん細胞に変化を引き起こし、治療に対して抵抗性を獲得した細胞クローンを出現させ、再発に至ることも多いと考えられている。この治療によるがん細胞の変化の1つに、老化細胞の出現があるが、老化細胞はさまざまなタンパク質を分泌することにより、周辺がん細胞の増殖や悪性化を促進する可能性が示唆されていた。

研究グループはこれまで、がん細胞に抗がん剤を低濃度処理することによって、効率的に細胞老化が誘導されることを見出してきた。抗がん剤治療においては、血流によってがん組織まで薬剤が運ばれるため、血管からの距離によって抗がん剤の濃度に差が生じることが予想され、通常のがん治療過程においても老化細胞が出現すると考えられている。そこで、従来の抗がん剤治療の際に、細胞老化を阻害する薬剤を同時投与することができれば、飛躍的な治療効果の上昇が期待できると考えられていた。

細胞老化制御遺伝子を標的とする薬剤の開発に期待

研究グループでは、肝がん細胞を抗がん剤である「エトポシド」で低濃度(10μM)処理すると細胞老化が誘導され、高濃度(100μM)処理するとアポトーシスが誘導されることをこれまでに見出していた。そこで、肝がん細胞をA「エトポシドなし」、B「低濃度エトポシド(10μM)」、C「高濃度エトポシド(100μM)」のそれぞれ3つの条件で処理した後、DNAマイクロアレイ法によって、転写量の上昇がみられる遺伝子を同定。Bで発現上昇している遺伝子は主に細胞老化であり、Cで発現上昇している遺伝子は主にアポトーシス実行で働く可能性があること、また、Cに比べBで特異的に発現上昇している遺伝子の中には、細胞老化実行に重要な役割を果たす遺伝子があると予想した。

同定の結果、条件Aと比較してBで3倍以上の発現上昇が見られた遺伝子が126種類、更に、Cと比較しBで2倍以上の発現を示したものが25種類あったという。この25遺伝子は、DNA損傷による副次的な影響が除かれた、細胞老化で特異的に発現上昇する遺伝子であり、その中のいくつかの遺伝子が細胞老化実行に働くことを確認したとしている。

今回同定した細胞老化制御遺伝子を標的とし、活性を制御する薬剤を開発することができれば、従来の抗がん剤治療と併用することで老化細胞の出現を阻止でき、がん治療効果の飛躍的な上昇が期待できるという。また、個体老化の原因の1つが老化細胞の蓄積であるという実験結果が報告されていることから、細胞老化を抑制する薬剤は、アンチエイジング製品として美容・健康に関わる製品開発などにも大きく貢献できる可能性がある、と研究グループは述べている。

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