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安静時脳活動の詳細な時空間構造と脳血流に変換される様子の観察に成功-九大

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2016年05月19日 PM12:00

fMRIを用いて近年活発に研究されている安静時の脳活動

九州大学は5月17日、安静時における脳活動の詳細な時空間構造と、それが脳血流に変換される様子を観察することに成功したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院・東京大学大学院医学系研究科の大木研一教授、東京大学大学院医学系研究科の松井鉄平助教、九州大学大学院医学研究院の村上知成博士課程3年生らによるもの。同研究結果は「米国科学アカデミー紀要」(PNAS)に5月16日付けでオンライン公開されている。


画像はリリースより

行動していない状態の動物で自発的に起きる安静時脳活動は、機能的磁気共鳴画像法()により脳血流信号でも観察できるため、近年活発に研究され、脳疾患診断などへの応用が期待されている。しかし、安静時における神経活動の詳細やそれがどのように脳血流信号に変換されているのかは、これまで不明だった。

神経活動の空間パターンが脳血流信号へと変換

そこで研究グループは、まず大脳皮質の広い領域において神経活動と脳血流を同時に観察出来るシステムを開発。神経細胞の活動を大脳皮質全体で記録するために、大脳皮質の全ての神経細胞がカルシウム感受性タンパク質(GCaMP)を発現する遺伝子改変マウスを利用したという。このGCaMPから出る緑色の蛍光を見ることで、カメラで撮影できる全域に渡って同時に神経活動を観察。さらに、赤色の光で大脳皮質全体を照らして反射光を記録することにより、神経活動に伴う脳血流の変化も同時に観察できるようにしたという。

また、微弱な信号を観察可能にするため、頭蓋骨を広い範囲でガラス板に置き換える手術法を使用。マウスの脳は平坦で大脳皮質の大部分が脳の背面上に出ているため、このシステムにより大脳皮質のほぼ全域に渡って神経活動と、そこから生じる脳血流信号を同時に計測することが可能になったという。

次に、軽い麻酔下で安静にしているマウスで長時間の観察実験を実施した。その結果、大脳皮質全体に渡って波のように伝わる神経活動が存在することを発見。このような活動の波の存在は、以前の研究でも知られていたが、研究グループは新たに、大脳皮質全体を伝わる波の伝わり方が機能的結合に似た特徴的な空間パターンを生み出すことを明らかにした。また、神経活動と同時記録した脳血流信号との関係を詳細に分析したところ、神経活動で見えていた特徴的な空間パターンは、脳血流信号の空間パターンへと正確に変換されていたという。更にこのような神経活動の特徴的な空間パターンが、脳血流信号の時間相関から計算した機能的結合の空間パターンに実際に寄与していることも示しているという。

今回判明したこれらの知見は、安静時脳活動を利用した脳のネットワーク構造の解明や、脳疾患診断の技術開発へ繋がることが期待される。また、今回明らかになった安静時脳活動が外部からの刺激により引き起こされる脳活動とどのように相互作用するかを明らかにすることは、脳の情報処理を理解する重要な課題だ、と研究グループは述べている。

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