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海女の血管年齢は同年代の日本人女性より10歳以上若い-産総研

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2016年04月20日 AM11:30

有酸素性運動と血管年齢や呼吸機能との関係の定説を超える発見

産業技術総合研究所は4月18日、三重県志摩・鳥羽地区ならびに千葉県南房総市白浜に在住する海女121名を含む女性203名(平均年齢65歳)の血管年齢計測を行い、海女の血管年齢は同年代の日本人一般女性の血管年齢より11歳程度若いことを明らかにしたと発表した。また、呼吸機能の1つである呼気能力はやや低い計測結果が得られたという。


画像はリリースより

この研究は、産総研人間情報研究部門・身体適応支援工学研究グループの井野秀一研究グループ長、菅原順主任研究員、テキサス大学オースティン校の田中弘文教授、株式会社フクダ電子ら共同研究グループによるもの。研究成果は「American Journal of Physiology」5月オンライン版および雑誌版に掲載される。

心血管疾患は、日本の主な死因の第2位であり、WHOの調査では70歳以下の非感染症疾患における世界第1位の死亡原因になっている。これら疾患の発症リスクとして注目されるのが、動脈壁の硬さを示す「動脈スティフネス」である。動脈スティフネスは加齢とともに増大するが、ウォーキングやジョギング、水泳などの有酸素性運動を習慣的に行うことで、加齢に伴う動脈スティフネスの進行を抑制、改善されることが明らかにされている。また、有酸素性運動は呼吸機能の向上をもたらすことが示されてきた。

研究グループは、息止め潜水の繰り返しであり、有酸素性運動とは異なる身体活動である海女という極めて特殊な労働形態に着目し、その身体活動が動脈スティフネスに与える影響を検証。質問紙により、現役海女、有酸素運動を習慣的に行っている女性、運動習慣を有さない女性の3群に分け、動脈スティフネスを計測した。

海女の身体機能メカニズムの解明で新たな心血管疾患発症予防策の創出に期待

その結果、CAVI値は、運動習慣を有さない群に対して、有酸素性運動を習慣的に行っている群で5.8%、海女で7.4%低値を示した。CAVIは動脈スティフネスの指標で、値が小さいほどスティフネスが低い(血管がしなやかである)ことを示す。運動習慣を有さない女性と比較すると、有酸素性運動を習慣的に行っている女性と現役海女の動脈スティフネスは有意に低く、血管がしなやかであることがうかがえる結果となった。

海女が日常的に行っている息止め潜水は、有酸素運動とは明らかに異なる運動だが、水圧の影響を受け、心臓に戻る血液量が増えるため、心臓が1回収縮したときに送り出される血液量(一回拍出量)は増える。このような一回拍出量の変化によって、しなやかな動脈壁が維持されていると研究グループは推察している。

また、血管年齢を実年齢と比較では、運動習慣を有さない女性で平均約6歳、有酸素性運動を習慣的に行っている女性で平均約8歳、現役海女では平均約11歳、実年齢よりも若いという結果に。つまり、現役の海女は、運動習慣を有さない同地区の女性より約5歳、運動習慣を有する同地区女性より約3歳若いということになる。

さらに、海女の肺活量は運動習慣のない一般女性よりも高いものの、一秒間でより多く空気を吐き出す能力(一秒率)は低いという結果も得られた。これは「磯笛」と呼ばれる海女特有の呼吸法に関係していると考えられるという。一般的に、有酸素性運動は呼吸機能の向上をもたらし、一秒率も増大することが明らかとなっているが、少なくとも、そのような効果を生み出す高強度の有酸素運動を行わずとも、動脈の機能を維持・向上できる可能性があることが示唆されたことになる。

研究グループは今後、水中運動に伴う身体機能の適応メカニズムの詳細を解明し、新しいスタイルのリハビリテーション法の提案や従来とは異なる新しい身体運動サービスとして、新たな心血管疾患発症予防策の創出につなげていきたいとしている。

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