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口腔内むし歯菌の脳出血発症への関与明らかに-国循ら

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2016年02月10日 PM01:30

食生活の改善に対する認知進むも、脳出血の患者数減少せず

国立循環器病研究センターは2月5日、むし歯の原因菌として知られている細菌(いわゆるミュータンス菌)のうち、血管壁のコラーゲンと結合することで血管の傷口に集まって血小板の止血作用を阻害する性質を持つcnm遺伝子保有株が、脳内で炎症を引き起こし脳出血の発症に関与することを明らかにしたと発表した。


画像はリリースより

この研究は、国循脳神経内科の殿村修一レジデント、猪原匡史医長らの研究チームと、大阪大学大学院歯学研究科口腔分子感染制御学講座の野村良太准教授らの研究チーム、京都府立医科大学院医学研究科地域保健医療疫学の栗山長門准教授らの共同研究チームによるもの。研究成果はNature誌系列のオンライン誌「Scientific Reports」に2月5日に掲載された。

脳出血は全脳卒中の20%程度を占め、比較的発症の年齢が若く、症状が重篤となりやすい疾病。その主要な危険因子は過度な塩分摂取及び高血圧や糖尿病など生活習慣病といわれている。昨今の各方面による啓発の効果もあり、食生活の改善に対する一般市民の認知は進んでいるにもかかわらず、脳出血を発症する患者数は減少していない。一方、近年の医学の進歩により、口腔や胃腸などの常在菌と全身の病気との関連が明らかにされつつある。むし歯や歯周病などの歯の病気についても、口腔内の細菌は血管の中に進入し、脳や心臓など全身の血管の病気を引き起こすのではないかといわれてきていた。

「脳口連関」解明で、重篤疾患の予防法・治療法につながる可能性

猪原匡史医長らの研究チームは、脳卒中で国循に入院した患者から同意を得て唾液を採取し、その中に含まれるミュータンス菌を培養。その中でcnm遺伝子保有株の有無や働きと、脳出血や脳MRI画像で見られる脳の変化との関係を調査した。

その結果、cnm遺伝子保有株が唾液中から検出された患者では、そうでない患者と比較して脳出血を発症している割合が高く、さらに脳のMRI画像で観察できる微小な脳出血の跡も多いことが明らかになった。生活習慣や年齢の影響によって硬くなった脳血管に対してミュータンス菌が傷害を起こすことで、脆弱になった血管が裂け脳出血発症に至るのではないかと報告している。

今回の研究で、ミュータンス菌と脳出血との関係を明らかにできたことは、脳卒中の新たな予防法の開発に寄与するものと考えられる。今後、日常の口腔清掃や歯科治療によってミュータンス菌など口内細菌の量を減少させることや、医療の現場で病原性の高い細菌を選択的になくすような方法を確立することで、脳出血等の予防につながる可能性がある。研究グループは、脳血管・脳神経内科と歯科が連携し、いわば「脳口連関」を明らかにすることで、脳卒中などの重篤な疾患の予防法・治療法に寄与する可能性を念頭に置き、研究開発を継続していきたいとしている。

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