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光遺伝学によってマウスのうつ状態を改善することに成功-理研

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2015年06月22日 PM02:15

過去の楽しい体験の記憶に関わる海馬の神経細胞を光で直接活性化

理化学研究所は6月18日、脳科学総合研究センター・理研-MIT神経回路遺伝学研究センターの利根川進センター長、スティーブ・ラミレス大学院生らの研究チームが、うつ様行動を示すマウスの海馬の神経細胞の活動を操作して、過去の楽しい記憶を活性化することで、うつ様行動を改善させることに成功したと発表した。


画像はリリースより

厚生労働省の調査によるとうつ病患者は、日本において入院と外来合わせて約96万人いると言われている。しかし、一般的に使われている治療薬の効果は個人差が大きく、うつ病の克服は容易ではない。また、最近は薬だけではなく、精神療法や経頭蓋電磁刺激法といった治療法も試みられているが、未だ有効な治療法として確立されていない。

研究チームは2014年に最新の光遺伝学を用いて、マウスの嫌な体験の記憶を楽しい体験の記憶に書き換えることに成功。楽しい体験の記憶は、海馬歯状回の特定の組み合わせの神経細胞の活動によって保存されることがわかっている。また、うつ病には、それまで楽しかったことが楽しくなくなるなど、過去の楽しい体験を正しく思い出せなくなる特徴がある。そこで、研究チームは、「過去の楽しい体験の記憶に関わる海馬の神経細胞を直接活性化することで、うつ病の症状を改善できないか」と考えたという。

海馬歯状回の神経細胞群に光をあて、人工的に活性化

まず研究チームは、オスのマウスにメスのマウスと一緒に過ごすという楽しい体験をさせ、その時に活動した海馬の歯状回の神経細胞を遺伝学的手法により標識した。この技術を用いると、楽しい体験で活性化された海馬歯状回の神経細胞でだけ、チャネルロドプシン2(ChR2)と呼ばれる、光をあてると神経活動を活性化させることができる特殊なタンパク質が作られるという。

次に、そのオスのマウスに体を固定する慢性ストレスを与えて、「嫌な刺激を回避する行動が減る」「本来なら好む甘い砂糖水を好まなくなる」といったうつ様行動が、実際に引き起こされることを確認した。この「うつ状態」のマウスにおいて、楽しい体験の記憶として標識された海馬歯状回の神経細胞群に光をあてて人工的に活性化したところ、「嫌な刺激を回避する行動が再び見られる」「砂糖水を再び好むようになる」といったうつ状態の改善がみられたという。

研究チームは、今回の成果がうつ病の新しい治療法の開発につながることを期待したいと述べている。

▼外部リンク
理化学研究所 プレスリリース

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