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精子幹細胞の新しい自己複製様式を発見-京大

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2015年02月18日 AM06:00

男性不妊症の原因解明や遺伝病の発症機序の理解に期待

京都大学は2月13日、同大医学研究科の篠原隆司教授らの研究グループが、精子幹細胞の新しい自己複製メカニズムを発見したと発表した。この研究成果は、米科学誌「Stem Cell Reports」に2月12日付で掲載されている。


画像はリリースより

精子幹細胞は、精細管の中で体細胞分裂を行っている精原細胞の一部分の細胞で、生涯にわたり精子を作り続ける。精子幹細胞の自己複製分裂は、精巣の体細胞であるセルトリ細胞から分泌されるグリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)が担っていると、これまで考えられていた。

このことを踏まえ、研究グループは2003年にマウスの精子幹細胞の長期培養法を確立し、試験管内で大量の精子幹細胞を得ることに成功。こうして得られた培養精子幹細胞(GS細胞)を用いることで、精子幹細胞の生化学・分子生物学的な解析や遺伝子改変動物の作成を行うことが可能になった。しかし、GDNF/Ret/Gfra1を欠損するマウスは腎臓形成の異常などにより生直後に死亡することから、その解析が難しい上、精子幹細胞の欠損が機能的に確認されていないという問題があったという。

GDNFに依存せず自己複製分裂を起こす新しいタイプの幹細胞が存在

そこで全ての幹細胞がGDNFに依存していることを確認するため、研究グループはGDNFの受容体であるRet遺伝子の変異マウスに注目。組織学的な解析を行った結果、GDNFに依存しない幹細胞が精巣内にあることが強く示唆された。

さらに、GDNF非依存性の細胞が自己複製能を持つ可能性を直接調べるために、精巣細胞を繊維芽細胞増殖因子(FGF2)の存在下で培養したところ、GS細胞とは異なった形のコロニーを形成する細胞集団(F-SPG)を得ることができ、GDNFを添加した場合にはGS細胞と非常によく似た形態のコロニーを持つ細胞集団(G-SPG)を得ることができたという。また、自己複製分裂のメカニズムを調べるために細胞シグナル伝達分子であるMap2k1/2の抑制を行うと、G-SPG細胞はその増殖が抑制されるものの、F-SPG細胞は影響を受けないことから、両者は異なった細胞分裂様式を持つことが示唆されたとしている。

精子幹細胞の自己複製は精子形成に大きな影響を与えるが、幹細胞は精巣における割合が極めて低く、特異的な分子マーカーが存在しないために、幹細胞の存在や異常を検出するのが困難だ。

研究グループは今回の成果について、

ごく少数の幹細胞が存在し、その増殖を刺激するような適当な環境を整えてやることで幹細胞を増幅させ精子形成を再開することができる可能性を示唆します。実験動物を用いて幹細胞の増殖要求性をより明確にすることで、ヒトの精子幹細胞の培養系の確立にもつながり、近い将来、男性不妊症の治療法の開発や遺伝病の発症機序の理解が進むことが期待できます。

と述べている。

▼外部リンク
京都大学 研究成果

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