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千葉大 免疫反応のブレーキ役を発見

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2013年11月26日 PM09:36

遺伝子発現を抑制するタンパク質「EZH2」分子が関与

科学技術振興機構(JST)の課題達成型基礎研究の一環で、千葉大学 大学院医学研究院の中山俊憲教授らの研究グループは、遺伝子発現を抑制するたんぱく質「EZH2」分子が免疫反応のブレーキ役として免疫系のバランスを調節していることを発見したという。11月15日、JSTと千葉大学により共同発表された。

近年アレルギー疾患の発症は増加の一途をたどっているが、一方で治療法は対症療法しかないため、根治療法の開発が急務となっている。そのなかで免疫系のバランスを調節する機構を解明した同研究成果は、アレルギー疾患の治療への道をひらく重要な知見をもたらすものといえる。

なお、この研究は、理化学研究所 統合生命医科学研究センターの古関明彦グループディレクター、東京大学の鈴木穣教授の協力を得て行われたといい、その成果は米国東部時間11月14日、米科学誌「Immunity」オンライン版に掲載されている。

欠損マウスを用いた研究で発見

アレルギー疾患は、過剰な免疫反応を原因としており、免疫反応の司令塔であるヘルパーT(Th)細胞が関係している。通常は、免疫反応を活性化させるTh1、Th2、Th17細胞と、免疫反応の抑制に関わる制御性T(Treg)細胞がバランスをとって正常な免疫反応を担うが、このバランスが崩れ、Th2細胞優位になった場合にアレルギー疾患が発症すると考えられてきた。

Th2細胞はサイトカインを分泌し、抗体(IgE)産生や好酸球の遊走・組織浸潤等を誘発することから、アレルギー疾患の根幹に位置する細胞といえる。そのため研究グループでは、このTh2細胞に関し、研究を進めてきていた。

一方、たんぱく質「EZH2」は遺伝的に、後天的な作用を加えて生体内の遺伝子発現を抑制するが、ヒトES細胞などの幹細胞で重要な働きをしていることや、その変異ががん細胞の引き金となることなどが判明してきている。しかし、これまで免疫系における働きは注目されたことがなく、その解明は進んでいなかった。

(画像はプレスリリースより)

そこで研究グループは、このEZH2について、遺伝子発現に抑制的に働くことから、免疫系において過剰な免疫反応を抑える機能があるのではと仮説を立て、EZH2欠損マウスを用いて研究を実施。すると、予想通りEZH2欠損マウスのTh細胞は、Th1サイトカインであるインターフェロンガンマと、Th2サイトカインであるIL-4、IL-5、IL-13を過剰に産生することが確認されたという。

さらにこの原因を詳しく調べるため、たんぱく質結合の遺伝子地図を作製する最新手法であるChIP-seq法を用い、EZH2の結合場所について遺伝子地図を作製したという。すると、予想に反し、EZH2欠損マウスで過剰に産生されていたサイトカイン遺伝子にはEZH2が結合しにくく、EZH2が直接サイトカインの産生を抑制しているのではないことが明らかとなった。

一方で、これらサイトカインを上流で制御している転写因子の遺伝子にはEZH2が結合しやすく、その発現を抑制しやすいということが分かったそうだ。これまでの研究で、インターフェロンガンマの産生には転写因子T-betが、IL-4、IL-5、IL-13の産生には転写因子GATA3がそれぞれ重要であることが分かっており、今回の研究を通じて、EZH2がT-betやGATA3の発現を適切なレベルに制御することで、その下流にあるサイトカインの過剰な産生を抑制、免疫反応のブレーキ役となっていることが判明したという。

このメカニズムは、アレルギー性気道炎症モデルマウス個体を用いた実験でも確認されている。このモデルマウスに野生型とEZH2欠損型のTh2細胞を移入して、アレルギー発症と病態をみたところ、EZH2欠損型マウスのTh2細胞を移入すると、アレルギー指標である気道肺胞洗浄液中への浸潤や気道過敏性の反応が確認され、EZH2による過剰な免疫応答のブレーキ機能が破綻していることが示唆されたそうだ。

今後の治療法開発に期待

研究グループでは、遺伝子抑制性たんぱく質のEZH2は、過剰な免疫応答を抑制する基本的分子であるが、生体内での異常から見て、Th2細胞抑制に対する寄与が大きいと考えられると結果をまとめた。また、慢性的にアレルゲンにさらされ、ヘルパーT細胞が持続的に刺激されると、EZH2による免疫系のブレーキ機構が破綻することも新たに発見したとしている。さらに、EZH2の異常がアレルギーの慢性化を引き起こす原因となるとの仮説も提唱できると指摘。

今後については、EZH2やEZH2が結合しているたんぱく質複合体を創薬ターゲットとして、さらに詳細なメカニズムを解明していくことで、EZH2を適切に働かせるよう促し、過剰な免疫応答の抑制法に、逆にEZH2を抑制させて免疫力の低下した患者への治療法にとつなげられる可能性があるとしている。(紫音 裕)

▼外部リンク

科学技術振興機構/千葉大学 プレスリリース
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20131115/

Immunity : The polycomb protein Ezh2 regulates differentiation and plasticity of CD4+ T helper type-1 and type-2 cells
http://www.cell.com/immunity/abstract/

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