医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > ステロイドが効かない重症ぜんそくのメカニズムを解明

ステロイドが効かない重症ぜんそくのメカニズムを解明

読了時間:約 3分8秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2013年11月06日 PM09:06

理化研、慶應大ら共同研究グループがマウスで解明

独立行政法人理化学研究所は、理研統合生命医科学研究センター免疫細胞システム研究グループの子安重夫グループディレクター、茂呂和世上級研究員(JSTさきがけ研究者)と、東海大学医学部呼吸器内科学系の浅野浩一郎教授、慶應義塾大学医学部内科学教室(呼吸器)の別役智子教授、加畑宏樹助教らによる共同研究グループが、マウスを用いて、重症ぜんそくで抗炎症薬剤「ステロイド」が効かなくなるメカニズムを解明したと発表した。

ぜんそく治療で基本となるステロイドだが、患者の5~10%はステロイド抵抗性を獲得してしまい、高用量の吸入投与を必要とする重症ぜんそくとなる。こうしたケースでは、最悪の場合死に至ることもある。

重症ぜんそくのメカニズムについては、これまで気道で作られるインターロイキン(IL)の1つであるサイトカインIL-33が体内で増加すること、IL-33やIL-33受容体の遺伝子変異が重症ぜんそくの発症に関係していることから、IL-33が深い関わりをもつことが強く示唆されてきた。しかし、どのようにステロイド抵抗性を獲得するのかなど、その詳細は明らかにされていなかった。

(画像はプレスリリースより)

原因は気道で作られるタンパク質「TSLP」

子安グループディレクターらは、2010年に新しい免疫細胞の「ナチュラルヘルパー細胞(NH細胞)」を発見しているが、これは従来の免疫組織とは異なる場所に存在し、IL-33の刺激を受けると、炎症を起こすタンパク質を放出、免疫系を活性化することが分かっている。そこで、共同研究グループでは、重症ぜんそくに見られるステロイド抵抗性と、このNH細胞との関連について調べることとしたという。

マウスにIL-33をまず点鼻したところ、肺のNH細胞が増加し、気道に炎症が起きた。そこでステロイドを投与したところ、NH細胞が死滅、炎症を抑えることができた。次に、重症ぜんそくの状態での反応を調べるため、マウスにアレルギーを誘導することで知られる卵白アルブミンとIL-33を点鼻。重症ぜんそくの症状が現れたマウスにステロイドを投与したが、NH細胞は死滅せず、炎症が抑えられないことが確認された。ここから、やはりステロイド抵抗性にNH細胞が関わっていることが分かった。

NH細胞が死滅せず、ステロイド抵抗性を示すのは、なんらかの免疫物質が作用していると考えられることから、NH細胞の培養液に15種類のサイトカインを加えて調べたところ、TSLP存在下で、ステロイド抵抗性が獲得されたという。

TSLPは気道や肺で作られるタンパク質で、重症ぜんそく患者でその遺伝子が活性化することが知られている。この結果を受け、マウスにTSLPとIL-33を同時に点鼻して、気道や肺の炎症を誘導し、ステロイドを投与してみたところ、顕著な効果は無く、肺の炎症も抑制されなかった。よって、TSLPがIL-33とともにNH細胞に作用し、ステロイド抵抗性が獲得されていたことが判明した。

NH細胞内の転写因子「Stat5」が重要な働き、ヒトにおけるステロイド抵抗性のコントロール実現に期待

さらに、TSLPがどのようにNH細胞に作用して、ステロイド抵抗性を得るのか調べたところ、NH細胞内の転写因子「Stat5」が重要な働きをしていることが分かったそうだ。

研究グループは培養実験で、ステロイド抵抗性を獲得したNH細胞にStat5阻害薬であるピモジドを添加すると、NH細胞が死滅して、ステロイド抵抗性が消失することを確認している。ステロイド抵抗性を獲得した重症ぜんそくのマウスにおいても、ピモジドを投与したところ、肺のNH細胞数が減少し、炎症を強く抑えることができたそうだ。

これらのことから、マウスにおいて気道のIL-33とTSLPがともにNH細胞に作用することで、ステロイド抵抗性が獲得されるというメカニズムが明らかとなり、さらにStat5が重要な役割を果たしていることから、その阻害薬を投与することで、ステロイド反応性を回復させることが可能であると実証された。

この実験で用いられたStat5阻害薬のピモジドは、ブチロフェン系の薬剤で、すでに認可された抗精神病薬として使用されているもの。今後、ヒトの重症ぜんそくにおける効果、安全性などについて研究を進めることで、臨床において現在問題となっている、ステロイド抵抗性のコントロールに対し、早期に応用できる可能性があると期待されている。

なお、この研究成果は、英国のオンライン科学誌「Nature Communications」の10月25日付に掲載されている。(紫音 裕)

▼外部リンク

独立行政法人理化学研究所/慶應義塾大学医学部/独立行政法人科学技術振興機構 プレスリリース
http://www.keio.ac.jp/ja/press_release/2013/

Nature Communications:Thymic stromal lymphopoietin induces corticosteroid resistance in natural helper cells during airway inflammation
http://www.nature.com/ncomms/2013/131025/

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 平均身長の男女差、軟骨の成長遺伝子発現量の違いが関連-成育医療センターほか
  • 授乳婦のリバーロキサバン内服は、安全性が高いと判明-京大
  • 薬疹の発生、HLAを介したケラチノサイトでの小胞体ストレスが原因と判明-千葉大
  • 「心血管疾患」患者のいる家族は、うつ病リスクが増加する可能性-京大ほか
  • 早期大腸がん、発がん予測につながる免疫寛容の仕組みを同定-九大ほか