糖尿病治療薬「グリベンクラミド」の効果
ドイツとスイス、ベルギーの大学による国際研究チームは、多発性硬化症(multiple sclerosis;MS)の治療のための新しい手掛かりを発見した。英国科学誌「Nature Medicine」に11月18日、公表した。
研究チームは、糖尿病治療薬に承認されているグリベンクラミドで、神経細胞死を遅らせることに成功した。グリベンクラミドは安全でかつ互換性のあることも証明済みである。すぐにでも患者に投与できる可能性があるという。
細胞膜にある特定のチャネルが活動していなかった時に、マウスの神経細胞のダメージが鈍った。神経細胞の炎症が進行しているにもかかわらず、神経細胞が生き残り、イオンチャネルの不活性化が生じたのである。

(Wikiメディアより引用)
一過性受容体電位メラスタチン4(TRPM4)の役割
研究チームは、一過性受容体電位メラスタチン4(TRPM4)が多発性硬化症での神経細胞の減少においてどのような役割を果たしているのかを研究した。
マウス実験において、機能しているイオンチャネルを持つマウスと多発性硬化症に類似した神経変性疾患を持つ遺伝的に欠陥のあるイオンチャネルを持つマウスとを比較。
その結果、TRPM4を持たないマウスの病気は緩やかに進行。免疫系の過剰反応により組織内は炎症を起こしていたものの、神経細胞は生き残った。同様の反応がグリベンクラミドを投与した時に見られたのである。
ヒト細胞培養による実験
どうしてそうなるのか、ヒト細胞培養によって実験を行った。そこで、多発性硬化症における神経組織の慢性的炎症がTRPM4チャネルを恒久的に開くことが分かった。それにより、充電されたナトリウム原子が常に細胞に流れ込むのである。
イオンバランスを保つために、細胞はより多くの水を取得する。その結果、神経細胞は膨らみ、死ぬのである。神経細胞死に関するTRPM4チャネルの重要な役割は、これまでのところ知られていなかった。
多発性硬化症とは
多発性硬化症は中枢神経系の脱髄疾患の一つで、脳や脊髄に生じた炎症により、神経が障害される難病である。手足のまひや視力の低下などの重篤な症状が現れ、その症状は悪化と好転を繰り返す。
多発性硬化症になるはっきりした原因はまだ分かっていないが、自己免疫説が有力である。白血球やリンパ球などの免疫系が、自分の脳や脊髄を攻撃するようになるのである。
他の神経変性疾患に対しても効果がある可能性
研究において、イオンチャネルの薬理的遮断が原則的に可能であることを示した。TRPM4チャネルは、多発性硬化症に対する新薬への糸口というだけでなく、パーキンソン病やアルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの他の神経変性疾患に対しても効果的かもしれない。
研究チームは今後、効果をさらに高めたTRPM4阻害剤の開発にも取り組んでいく予定である。
▼外部リンク
英国科学誌「Nature Medicine」
http://www.nature.com/nm/journal/
ハンブルクーエッペンドルフ大学病院のプレスリリース
http://www.uke.de/medien/
グリベンクラミド(一般名)添付文書
http://www.packageinsert.jp/search/2グリベンクラミド