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中国視察① 公園を高齢者村にする、という発想

2017年10月11日

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北京首都空港に到着後、主催の王 青 (Qing Wang)さんたちと合流し、そのまま長友養老服務集団が運営する北京市朝陽区長友養老院へ。

ここは300床(床面積15000㎡)の高齢者施設。
主に生活支援が必要な方が入居対象で、現在200人が生活している。要介護度が高い人、中等度の人、軽度の人が3分の1ずつ。入居開始は2015年だが、これまでに2人が亡くなられ、いずれも施設内でお看取りされたとのこと。
職員は110人(うち介護職80人/医師5人/看護師6人/理学療法士2名/ソーシャルワーカー4人)。

月額の費用はベッド・食事・介護がセットになって7000~7500人民元(12~13万円)。
日本でいえば介護付き有料老人ホームのような施設だが、北京市には介護保険制度はないので全額が自己負担となる。北京では一般的な世帯収入が約20万円、年金も少ないので限られた人しか入れない。
ただし運営母体はNPOと認定されており、事業は非課税とのこと。日本でいえば「社会福祉法人が運営する全額自己負担の老人ホーム」という感じだろうか。

【施設・居室】
居室は全部で300室。個室・二人室の2パターンがあるようだが、いずれも十分な広さ。天井も高く、大きな窓がついていて、明るく快適な空間だった。トイレ、シャワーは各居室にあり、ここにも十分な広さが確保されている。
廊下や公共スペースはかなり広く確保されており、中央部には大きな吹き抜けもある。自然光が両側の窓から、そして天井から吹き抜けを経由して建物全体に入り込み、開放的で明るい空間になっている。公共スペースにはテーブルや椅子、飾り棚などが配置され、生活感や温かさを感じさせるような工夫がある。空間づくりについては上海の紅日グループも支援しているとのこと。

【食事】
週間献立表を見る限り品数はかなり多そう。レシピは1000通り以上あり、メニューは3種類から選択できる。2か月は同じものが回ってこないそう。栄養士は配置されており、糖尿病などの病態食は個別に対応できているが、摂食嚥下障害に対しては、現状、ミキサー食・経管栄養以外の対応はできていない。この部分は課題であり、今後、積極的に取り組んでいきたいとのこと。ちなみに歯科は定期的な無料検診が受けられる。検診で問題が見つかれば、歯科治療を受けることになるが、専門的な摂食嚥下ケアが提供できる体制ではない。
食事は基本的にはダイニングスペースで提供される。養命酒のようなクコから作られた健康酒も毎日提供されるのだそうだ。

【ケア】
身体ケアの現場を見ることはできなかったが、研修センターを開設し、有資格者の養成にも取り組んでいるとのこと。
見学時には、比較的自立度の高い入居者たちが集まって、ソーシャルワーカーがコーディネートしたレクに参加、または入居者同士で将棋や麻雀などをしながら時間を過ごしていた。機能回復スペースには新しい日本製のリハビリマシンが並び、理学療法士の支援が受けられる。
視察中、廊下で入居者のご家族と出会った。彼女は普段はカナダで暮らし、年に3回程度帰国しては入居している母親の見舞いをしているという。父親が亡くなった後、一人暮らしが難しくなったが、この素晴らしい施設のおかげで安心して親を預けておけるという。設備もケアも最高だと彼女は評価していた。公共スペースで出会った方々はきちんとした服に着替え、保清も適切に行われている。

【医療・健康管理】
施設内には診療所が併設されている。上海では250床を超える施設には診療所の併設が義務づけられていたが、北京でも同様なのだろうか。
家庭医が5名配置され、シフトで24時間対応。ただし積極的な医療行為をするというのではなく、日々の健康管理が業務の中心。定期処方や積極的治療が必要な場合、社区の診療所や連携する病院を受診することになるとのこと。200名に対し看護師が6名、という配置を考えても、医師と看護師の業務にそんなに大きな差がないのかもしれない。
診療所とされている場所は、日本の老人ホームの「健康管理室」のような空間で、入居者の健康記録がカーデックスで管理されている。診療所とは別に配薬室があり、ここでは入居者が持ってきた薬を預かり、服薬タイミングごとにまとめて配薬する。担当するのは薬剤師ではなく看護師。薬の数はかなり多い。内服・外用ともに漢方薬も頻用されている。特殊な抗ウィルス薬を思わせるような派手なカプセルや錠剤が多いのが印象的だった。

敷地内には福祉用具の展示スペースもあり、長友養老服務集団では身体機能評価とそれに応じた福祉用具のコーディネートなどを北京市の委託を受けて行っており、すでに10万件以上に対応しているという。
また、長友養老服務集団では、隣接地に認知症ケアに特化した120床・10000㎡の高齢者施設の建設を進めている。ここはユニットケアを採用し、精華大学がデザインを担当したというドーナツ型のフォルムが印象的であった。そして、その周囲にはさらに3棟の自立度の高い高齢者を対象としたサービス付き住宅の建設を進めている。

ここまでが第一期のプロジェクト。
全三期のプロジェクトが完了すれば、面積36.5ヘクタール・3000床の「養老村」が出現することになるという。

北京市の中でも環境のよい地域だが、もとは森林公園だったとのこと。
公園を高齢者村に作り替えてしまうとは、さすが中国。

佐々木淳
医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長
プロフィール
筑波大学医学専門学群、東京大学大学院博士課程卒業。三井記念病院、医療法人社団 哲仁会 井口病院副院長等を経て、24時間対応の在宅総合診療を提供する医療法人社団 悠翔会を設立。