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「脳死」は誰にでも起こり得るのか?

2017年9月27日

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「脳死」はどんな時に起こるのでしょうか? 誰にでも起こり得ることなのでしょうか?

今回はそのことについてお話ししてみたいと思います。

脳死は病気の末になるのではなく、昨日までまったく元気だった人が、突然の事故や病気から脳死になることがほとんどです。
一番多いのは「頭部外傷」で「くも膜下出血」「脳出血」が続きます。

「頭部外傷」は交通事故や転倒、転落など、頭に大きな衝撃が加わった時に起こります。
つまり「脳死」は、めったに起こることではありませんが、誰にでも起こり得る、ということになります。

「脳死」という言葉が書かれている身近なものといえば、運転免許証や保険証の裏面の「臓器提供意思表示カード(ドナーカード)」の欄です。
そこにはこう書かれています。

—————————–

1から3までのいずれかの番号を○で囲んでください。

1. 私は、脳死後及び心臓が停止した死後のいずれでも、移植のために臓器を提供します。
2. 私は、心臓が停止した死後に限り、移植のために臓器を提供します。
3. 私は、臓器を提供しません。
《1又は2を選んだ方で、提供したくない臓器があれば、×をつけてください。》
【心臓・肺・肝臓・腎(じん)臓・膵(すい)臓・小腸・眼球】

—————————–

「1と2の違いは何なのか?」「2を選んだらどうなるのか?」
この違いについて説明したいと思います。図もご参照ください。

(クリックすると別ウインドウに拡大表示します)

ふつうの「死」とは、心臓が止まった時で「心臓死」とも言います。
ほとんどの人は何かの病気にかかり、脳だけでなく全身のいろいろな臓器が悪くなって、最後に心臓が止まります。

それでは「脳死」とはどのような状態でしょうか?

脳の中には「脳幹(のうかん)」と呼ばれる、命を維持するために不可欠な「命の司令塔」のような場所があります。心臓も呼吸も、脳幹でコントロールされているため、脳幹がダメージを受けると、すなわち命にかかわります。

脳幹以外の脳がダメージを受けて意識がない状態は「植物状態」と言われますが、命の司令塔である脳幹が機能していれば、心臓や呼吸が止まったりすることはありません。しかし「脳死」は脳幹のダメージが回復不可能になり「命の司令塔」が働かなくなることで、近いうちに心臓が止まって「心臓死」に至る、という状態です。

ここで重要なのは、心臓が止まる「前」と「後」では提供できる臓器が違うことです。
「腎臓、膵臓、角膜」は心臓が止まった後でも臓器提供ができますが、「心臓、肺、肝臓、小腸」は、心臓からの血流が少なくなると臓器のダメージが進んで臓器提供ができなくなります。

ドナーカードの「1」を選んだ場合は、「脳死かもしれない」という時に、本当に脳死状態なのか?本当に脳幹の機能は戻らないのか?を判断し「脳死である」と判断した上で、心臓が止まる「前」に「心臓、肺、肝臓、小腸」の臓器提供ができますが、「2」を選んだ場合は、心臓が止まった「後」にだけ提供できる臓器に限られてしまう、ということです。

心臓が止まる前に「死」を決める。これは極めて慎重に、厳格に、行います。

例えば「あなたの余命は○年ぐらいかもしれません…」と医師が説明する時はふつう主治医の先生の判断になりますが、「脳死の状態で余命は○日ぐらいかもしれません…」という場合には、主治医とは別の脳の専門家2人の医師(その病院で足りない場合は他の病院から来て)が、時間をあけて2回にわたって詳しい診察と検査を行って、本当に脳死の状態なのか?本当に脳幹の機能は戻らないのか?を判断します。いわゆる「脳死判定」と言われるものです。

ちなみに、ネットには「脳死と言われてから何年も生きた」「脳死から生き返った」という記載も多くもありますが、このような厳格な脳死判定の手順を踏んだ上での「脳死」だったのかは分かりません。

脳死は、めったに起こることではありませんが、誰にでも起こり得ることです。
脳死になってしまってから、自分自身で意思表示することはできません。
「提供したい」という意思も、「提供したくない」という意思も尊重されなければなりません。

自分が死ぬことや大切なご家族が亡くなることなんて想像したくもありませんが、
命について考えることは、命を大切に想うきっかけになるのではないか…と思っています。

立石実
東京女子医科大学 心臓血管外科
プロフィール
熊本大学医学部卒業。同年東京女子医科大学日本心臓血圧研究所心臓血管外科入局。中野佼成病院、聖隷浜松病院、富山県立中央病院、京都府立医科大学に出向。2009年~現職。専門医資格:心臓血管外科専門医、外科専門医、循環器専門医
著書
こどもの心臓病と手術