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移植を待つ、ということ

2017年7月19日

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移植医療について発信したい…という想いはあったのに、何か私の中の勇気が足りませんでした。本当にごめんなさい。

今更ながら、想いが溢れ始めたので、少しずつ発信したいと思います。

私が今、主に診ているのは、心臓移植を待っている患者さんたちです。
小さな子供がいるお父さんやお母さんだったり、我が子を助けたくて、藁にもすがる思いで地元に家族を残して東京に出てきたお母さんと息子さんだったりします。

数年前までは、あらゆる治療をしても心臓がよくならない、心臓移植以外に治療法がない、という人は、強心剤の点滴をするか、心臓の代わりをする機械(=補助人工心臓)を身体の「外」につけて、ずっと入院していなければなりませんでした。しかし、2011年に「植込み型補助人工心臓」が日本でも使えるようになりました。「植込み型」、つまり、身体の「中」に心臓の代わりとなるポンプを植え込むことで、病院にずっと入院していなくても、ご自宅で過ごしたり、仕事をしたりすることができるようになりました。

しかし、補助人工心臓は根本的な治療ではなく、あくまで心臓移植を待つ間の「橋渡し」の治療です。

機械の中で血が固まらないようにするために、固まりにくくする薬を大量に飲むため、脳、胃、大腸などあらゆるところが常に非常に出血しやすい状態です。また、機械に菌がつくと非常に治りにくく、それによって命の危険にさらされることがあります。また「植込み型」とは言っても、ポンプを駆動するための電力供給やポンプのコントロールのために、お腹の脇からケーブルが出ている状態なので、お風呂には入れずシャワーのみ、ケーブルが皮膚を貫通するところは自分で毎日消毒をしなければならず、時にそこから菌がつくことがあります。そして、自分の心臓はほとんど動いていないため、バッテリーが切れで電力供給がされなかったり、ポンプに何らかの問題が生じた時…それは死に直結しています。

「橋渡し」というと誰もが通って渡れるように聞こえますが、このような重大な合併症がいつ起きるかわからない状態を考えると「橋渡し」ではなく「綱渡り」のように思います。私の患者さんやご家族も読むと思うので、こんな恐ろしい表現をして本当に申し訳なく思いますが、でも、私にとっては正直それぐらいの気持ちなんです。

そして、その「綱渡り」がどれぐらい続くか? つまり、移植までどれぐらい待つか? というと…現時点では約4年です。

なぜ4年も待たなければならないか?
それは、心臓移植しか治療法がないという人の数に対して、臓器提供をしてくださる方の数が圧倒的に少ないからです。

「子供のために死ねない」
「お父さん、お母さんを失いたくない」
「愛する人を失いたくない」
「自分より我が子を先に死なせたくない」
「生きたい」
「生きていて欲しい」

そんな想いで患者さんやご家族は移植を待っています。

あくまで私見ですが、これから心臓移植に関する私の想いを少しずつ吐き出したいと思うので、興味のある方はお付き合いいただけるとありがたいです。

なお、写真は私の患者さんからご提供いただき、ご了解を得て掲載しています。小さなお子さんが2人いるお父さんです。

立石実
東京女子医科大学 心臓血管外科
プロフィール
熊本大学医学部卒業。同年東京女子医科大学日本心臓血圧研究所心臓血管外科入局。中野佼成病院、聖隷浜松病院、富山県立中央病院、京都府立医科大学に出向。2009年~現職。専門医資格:心臓血管外科専門医、外科専門医、循環器専門医
著書
こどもの心臓病と手術